【俺スカ】私のズボン、どこいった？ (ページ4)

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2話ページ4

ボケっとしたまま思考の海で遠泳していた私を置き去るように話は進んでいたらしい。少し近づいた原田先生の怒りで現実に上がると、懲りずに絡んでいた東条が説教されたっぽい。何してんだあいつ。
踵を返し、教えてやるから、とチョークをとった先生の手元を、耳の穴かっぽじってよく見る。深緑に映える白い線が意味を為して行くのを、生徒が興味本位に眺める。
そこに書かれた文字は簡潔な、【LGBT】の4文字。
高校生にそんな深い4文字が理解できるんだろうか。
一文字ずつ端的に説明した後、Gを指してそれを自分だと言い放つ先生。社会で話題になっているワードだし、知らない人の方が少ないだろうけど、それに当てはまる人間だと手を挙げられる人はもっと少ない。
普通にすげえな先生。

不意に関心を持っている話題に触れた先生に、少しばかりの好感を持つ。
女装は表現の形。そういうのなら、私の男装も表現の形だ。一人称を変えていた時期もあったが、周囲からの好奇の目は、思ったより思春期の心に突き刺さるもので。実際、LGBTな訳でもない、好きでロングスカートを履く時もある人間だから、と納得させた時期が懐かしい。

「そこのあんたもそうよね」

『うぇ、私っすか』

不意にチョークで指され、絶対マヌケ顔をしてるが無視する訳にもいかず、自分を指で指す。ちょっと笑って、そうあんたよ、と言われれば、皆が言うほどやばいやつには思えなかった。

「おい、お前わかった？返事は」

「教師がお前ってダメなんじゃねーの」

東条に向き直った先生がサラッと話を戻すが、その東条は態度を改める気がなさそうに粗を探す。それに素早く先生が言い返す。うわ面倒くさ、っていうか東条機嫌わるっ。
結局、明智が割って入るまで地味な口論は続き、授業が始まるからと円満に収めた。最後にちゃっかり喧嘩を売ってはいたが。

虎視眈々と寝首を狙う、明智秀一。
こいつも悪いやつじゃないけど……。
ちらと様子を見れば、図ったように視線が揃う。ふっと鼻で笑われ、直ぐに先生の去っていった方に目を逸らされた。
なんとなくそれを追った先では、次の授業の先生が入ってくるところだった。