抱 ページ4
「俺は…"あの時"から、ずっとアンタを探してたんだ」
ああ、だからなのか。
彼が初めて私の店に来た日…あの時彼が見せたあの顔…、やっと会えた、そう言いたげな、泣きそうなのを堪えているような笑顔…。
じわり、私の目元に熱が広がる。
パイプ椅子に座っている彼に、少しだけ肉が落ちた腕を伸ばし優しく掻き抱く。
骨の匂いと、ミルクのような優しい香りが彼からした。
「…A...?」
『…っ、私…貴方を抱き抱えて必死に逃げてた時に、貴方に言われたんです。"アンタ、誰?"って…そう言われた瞬間、私は何故か酷く胸が痛んだんです。一瞬息をするのを忘れてしまうほど…。私があのたった一言で、こんな気持ちを抱いたのなら…"あの時"から私を探し続けていた貴方が、当の本人である私に"会った覚えはない"と言われたら…一体どれだけ胸が痛くなるんだろうと考えたら、申し訳なくて、っ、ほ……ほんとに、ごめんなさい』
小さな骨の体を優しく、けれど強く抱きしめる。
抱き心地は、あの夢を見ている時に感じたものよりも良く感じた。
気が付かないうちに私の目から溢れた涙が頬をつたい、彼が着ている青いパーカーにひとつシミを付ける。
「…へへ、別にいいよ。だって俺があの回廊で出会ったアンタは、あの時のアンタよりも未来のアンタだったんだから。知らなくて当然さ」
ポフポフ、柔らかいミトンをはめた小さな手が私を労るように背を撫でる。
彼は優しい。
きっと彼の方が私よりも何倍も辛い思いをしているはずなのに。
そう思うと、更にどばどばと涙が溢れ頬を伝っていく。
『ゔっ、ゔぅー…』
「はは、そう泣くなって。…俺は別に、アンタが俺を覚えてなくても良かったんだ。…俺はただ、また全てが消される前に、アンタに一言だけ"ありがとう"と言えれば、それで良かったんだ」
よしよし、小さな手が私の頭を撫でる。
『…?』
待て。
今彼は何と言った...?
消される?
また全てが?
…何故か私は、今までのは全て前座で、ここからやっと何かが始まるような気がした。
『っ、…ずび、消されるって、どういうことです…?』
ずびずび、穴から頭を覗かせようとする鼻水を啜り、ティッシュで軽くチーンッ!と鼻をかんでから腕の中のサンズさんに問い掛けた。
「…うん、そうだな。アンタになら、話してもいいかな。…ようやくここまで来られたんだし」
ふ、と哀愁漂う笑みを浮かべる彼に、私は何故か嫌な予感を感じてしまった。
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春朧 - 素晴らしい作品をありがとうございます！！この作品を見つけてから何回も見返して楽しんでます！！これからも応援してます (2022年8月16日 11時) (
レス) id: 27ed0134a4 (このIDを非表示/違反報告)
名無し56929号(プロフ) - この作品に出会ってはじめから一気読みしました…一番好きな小説ですありがとうございます… (2022年6月16日 12時) (レス) @page23 id: bb65216783 (このIDを非表示/違反報告)
くろほたる(プロフ) - お陰様で新たな扉が破かれました。お話開く度一喜一憂してしまいます。sansの原作っぽさを再現しつつ違和感皆無に仕上げるの感動しました…！おじさん(主人公)かわカッコでsansもカッコかわなの凄く微笑ましいです悶えます…！！長文失礼しました。おかえりなさい…！！ (2022年5月29日 23時) (レス) id: c41e537264 (このIDを非表示/違反報告)
夢川(プロフ) - 黒曜楼乱さん» ただいまですー☺️ (2022年5月17日 23時) (レス) id: f5c230c4ae (このIDを非表示/違反報告)
夢川(プロフ) - モブくんさん» えへへ、遅くなってすみません☺️ (2022年5月17日 23時) (レス) id: f5c230c4ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢川 | 作者ホームページ：http://ulog.u.nosv.org/item/da3d119d46aa3a420b503d00d3fa8e22/1637423635...
作成日時：2021年11月29日 14時
