【UT】SUNRISE/SUNSET【男主】

誘 ページ14

午後18時。

「そろそろ女房が帰ってくるから帰るわ」
「私も息子が帰ってくるから帰るわねー」
「私も塾あるから…」
「残業が…」

常連客達は会計を済ませ、ゾロゾロと店から去っていく。
そんな中、1人だけ帰らない人物がいた。
はしゃぎ疲れたのかカウンターでうとうとと微睡んでいる鏡餅の様なスケルトン、サンズさんだ。
出来るだけ音を立てない様に空いたグラスと皿を全て回収して、食洗機の中へ入れる。
…そろそろ店仕舞いでもするか。
ガラス扉に掛かっている看板をひっくり返し、鍵を閉めた。
テーブルを拭き、椅子を拭き、床を箒とモップでピカピカに磨いていく。

「ん、ん…」

モゾ。
カウンターに突っ伏している小さな背中が身じろぎ、ゆっくりと起き上がった。

「あれ…? みんなは?」
『みなさんはそれぞれ用事があるので帰りましたよ』
「あー…そっかぁ」

寝ぼけているのか、ぽやぽやとした表情で再びカウンターに突っ伏すサンズさん。
ちょっとちょっと、また寝ないでくださいよ…もう店仕舞いなんですから。
洗い終わった食器を布巾で拭き、食器棚へと戻す。

「なぁ」

ふと、すぐ真後ろで声が聞こえたので振り返る。
そこには、カウンターチェアではなく、カウンターに直に座っているサンズさんがいた。
あの、さっきそこ拭いたばっかりなんですけど…。

「アンタさ、この後ヒマ?」
『この後、ですか?』
「うん。オットーから聞いたんだけどさ、アンタたまにこの店をバーとして開いてることもあるんだろ?」
『まぁ、ただの趣味なんですけどね』
「実はさ、行きつけのバーがあるんだよ。アンタが良ければこの後行かないかい?」
『それは、デートのお誘いですか?』

本当に、ただサンズさんを揶揄うつもりで、冗談で言ったつもりだった。
でもサンズさんは、私の言葉に驚いたのか一瞬目を見開くと、少しだけ頬を染めて照れ臭そうに微笑んだ。
…え、マジですか?

『え、あの、冗談なんですけど…』
「へ、ぇへへへ」

私をうっとりと見つめる彼。
…何故彼はこんなに私にアプローチをして来るのだろう。
気まずさと、少しばかりの恥ずかしさを隠しつつ私服に着替える。

「それで、行く?行かない?」

…うーん、どうしようか。
断る理由とかも特にないし、家に帰ったらどうせ寝るだけだし…。

『そうですね、お誘いして頂いたんですから、お言葉に甘えて行きます』
「そうか、よかった」

ニンマリと笑みを浮かべる彼を、可愛いと思ってしまったのは…ここだけの秘密だ。

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