室町ラブロマンス (ページ33)

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その感情は初めてページ33

『うん…買い残したものは無いね』

雲一つ無い青空。

外に出るには絶好の日で、私は食堂のおばちゃんにお使いを頼まれた。

お買い物もそこそこに、籠の中身とメモに書かれた野菜を見合わせる。

買い残しが無いことを確認して、学園へ戻ろうと歩を進めた。

「そこのお嬢ちゃん。本はよく読むかい？」

声を掛けられて思わず立ち止まる。

どうやらその声は小物屋の店主のものらしく、机の上には扇子や櫛、簪などの小物が置かれていた。

『そうですね…それなりには読みますよ』

「そうかい、ならこの栞なんてのはどうだい？」

『栞…』

店主が栞を私の前に突き出す。

その栞は押し花の物で、薄紫の花だ。

あれ、この花って。

『この花って何の花ですか？』

「これかい？これは桔梗の花だよ」

あ、やっぱり。

その栞に映える薄紫を暫く見つめて、ふとこの間雷蔵が言っていたことを思い出した。

_______僕が印象に残ってるのはね、永遠の愛っていう言葉。

…恋というのは不思議なもので。

彼奴を見ると不思議と胸が高鳴るし、

明日はどんなことがあるんだろうって、次の日が楽しみになるし、

いいことばかりじゃなくて、嫌なことも、悲しいことも沢山ある。

そう、何だかまるで、三郎に支配されているみたいに。

だから、

『…この桔梗の栞、ください』

「まいどあり！」

こうして、花言葉で選んだ桔梗の栞をお前にあげるのも、

全部お前に、三郎に、恋という形で支配されているからなんだ。

永遠の愛なんて、少し重いだろうか。

遠回しの告白紛いに彼奴は気付くだろうか。

胸の中で様々な感情がゴチャゴチャするけれど、それは全く嫌なものじゃない。

寧ろ、少し楽しい。

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