29、降谷と朝 ページ29
ーー
突然パチリと目が覚めた。見慣れぬ寝室で少し焦るも、隣の小さな寝息を立てる後輩のお陰で全て思い出す。
…そうか、ここは降谷の家か。
昨日の花火の後、ここへ連れてこられた事を思い返して小さく笑った。
近くに放り投げてあったスマホを手に取って時間を確認。アラームをかけなくとも、ちゃんと起きれたようだ。
「ふる、や…おはよ」
「…」
「…ん?ふるや」
「……」
「降谷…おい、起きろ!」
「………」
「くそ…っ!またか!!」
例の仮眠室での流れと同じだ、とひとり焦り出す。
…こいつ、やっぱり起きないじゃないか!
「バカ降谷!!遅刻するぞバカ!」
ぺしぺし頬を叩くも、一瞬迷惑そうに顔を歪めただけでまた小さな寝息を立て始めた。
っ、くそ、気持ちよさそうな寝顔で…。
「……なんだこいつ」
はぁ、と大きなため息をついて彼の腕から抜け出した。整いすぎた降谷の寝顔をじっと見下ろすも、このままでは埒が明かないし。今日は朝から大事なミーティングがあるのに……このままでは遅刻する。
「安室透」
「…」
「バーボン!……以前から気になっていたが…コードネームが酒の名前ってどうなんだ…かっこいい、のか?」
私の呟きにも当然ながら反応なし。
ため息を零しつつ、スヤスヤと眠る彼の頬をそっと撫でると…気持ちよさそうに少し笑うから。
「……可愛いな、降谷」
「は?」
「あ、起きた」
突然パチリと瞼を開いた降谷。
私の苦労なんか何も知らない、とでも言うように大きな欠伸をして、目を擦りながら身体を起こした。
…そんな姿を見たら、ため息しか出てこなくて。
「はぁ……お前、本当に起きないな。」
「は?」
「…え?」
この流れまで完璧に同じじゃないか。再放送かよ。…何なんだ。
やはり、朝が弱い事を本気で自覚していないような…この反応。いつもどうしてるんだこいつ。
「そんなに起きませんでした…?」
「あぁ、苦労した。……って、毎朝大変じゃないのか?」
首を傾げて問うと、降谷は『…いいえ』とキッパリ答えた。
「僕…寝起きは全く悪くないし、寧ろいつもはアラームが鳴る前に起きる位ですが…」
「…はい?おい、嘘だろ……私がどれだけ頑張ったと…」
予想外すぎるセリフに全身から力が抜けて、ぽふん、とベッドに転がる。
朝から疲弊した私の様子を見た彼は、小さく笑って『すみません…』と謝りながら頬を撫でた。
359人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:re | 作成日時:2021年4月1日 15時