16、感謝の言葉 ページ16
ーー
「……Aさん」
「ん?あぁ、降谷か。またこんな真夜中に……お前は本当に大変だな。…お疲れ」
突然声をかけられ、モニターから顔をあげる。
横にはいつの間にやら登庁していた、不機嫌そうな顔の後輩が立っていて。
時計に目をやれば既に深夜2時半。そりゃ、私達以外誰もいない訳だと苦笑いを零した。
「それは貴女もでしょう……って、そんな話をしたいんじゃない。」
「うん?」
「……左足。ヒビ、入ってたって?」
私のデスクに缶コーヒーを置いた降谷が、深いため息をついてそう告げた。
ビクリと肩を揺らした私は、ぎこちなく彼へと視線を移す。
「…」
腕を組んで私を見下ろしながら返事を待つ降谷の姿に、ずるずると顔を伏せた。
面倒だから脱いでいた片足だけのパンプスを、机の下で軽く蹴る。
……くそ。誰だ、告げ口したの。
「…誰に聞いた…風見か…?広瀬か?」
「誰だっていいでしょう。というより、その足と松葉杖を見れば分かりますが。……本当に貴女って人は…」
降谷のお説教が始まりそうで、私は苦笑いを浮かべた。こいつは私に対して怒ってばかりだな。
ただの捻挫だと思っていた足には、軽くヒビが入っていた。医者に暫く松葉杖を使うよう指示されてはいるが……こんな下らない怪我なんか、すぐに治してやる。
……降谷には黙っておくつもりだった。案外バレるのが早かったな…
「いや…お前が思っているほど酷くないから…って、なんだその目は。嘘じゃない、本当だ」
「そういう問題じゃない」
疑うような視線を投げかけられて言葉を続けたが、ピシャリと言い返す彼に苦笑する。
怪我をして怒ってくれるなんて…
お前は、本当に優しいな。
「……悪かった」
「…」
「私を…心配、してくれたんだろ?」
机からゆっくりと身体を起こして、彼の方を向いた。
素直に謝った私に驚いているのか、何も言わず固まっている降谷に微笑みかけて立ち上がる。
ヒールを履いていないと、余計に彼との身長差を思い知って…私は小さく笑った。
「…Aさん」
私の足を心配そうに見つめる彼に『大丈夫だ』と小さく告げてから、手を伸ばして彼の頬をそっと撫でる。
青く澄んだ……綺麗な瞳と、視線が絡んだ。
「……いつもありがと、降谷。」
「…」
感謝の言葉を伝えて笑いかけると、自分の顔が熱くなった。気が、した。……降谷に『顔が赤い』とバカにされるかな。
柄にもない事してるって、自分が1番分かってるんだ。だから…恥ずかしい。
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作者名:re | 作成日時:2021年4月1日 15時