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132、嫌ではない ページ41

『バカみたいに』…か。
よく私も耳にする言葉に、引っかかりを覚えた。

「葵くんも女の子にバカって言う?わたし、安室さんによく『バカ』って言われるんだけど…そんなにバカなのかな……」

空気を読まない質問なのは承知の上だから、控えめに問いかける。眉を下げた私を見た葵くんは可笑しそうに笑った。

「ううん、違うよ。彼女はAちゃんよりずっと子供っぽい性格だったから」

葵くんの言葉にハッとした。
……そうか、高校生だったもんね。

成長すること無く、彼女の時は止まってしまった。だから葵くんの中ではずっと…5年前の、その姿のままなんだ。
記憶の中の彼女を置いて、自分だけ大人になっていく。
そんな当たり前のことに気がつくと胸がズキリと痛んだ。

「また泣きそうな顔してる」
「…っ、ごめん!」

笑顔でいようと思ったのに。ダメだな私。
思いっきり自分の頬を叩いて涙を止めようとすると、目の前の葵くんは驚いたような顔をして…
クスクスと笑った。

「それと…『バカ』なんて誰にでも言えるわけじゃない。Aちゃんだって、そんなに仲の良くない人には言わないでしょ?」

「うん」
「多分、安室さんが『バカ』って言うのはね……」








ポアロへ移動して葵くんと勉強するうち、店内からお客さんが居なくなったタイミングを見計らってカウンターへ歩く。

「安室さん」
「…ん?」

小さな声で話しかけると、彼は少し顔を近づけてくれた。
今は葵くんがいるから、ちょっとだけ優しい店員さん。

「安室さんが私に『バカ』って言うのは…やっぱり、私のこと本気でバカだと思うからだよね?……って、これ伝わる?」

口に出したはいいけれど……なんだこの分かりにくい質問は。
安室さんに『何言ってるんだ』と怒られそうだなんて、今更後悔。



ー 『Aちゃんの事が大好きで……可愛くて仕方ないからだと思うよ』。

公園での葵くんの言葉を思い返してみるけれど。
大好きだから、バカって言う…?いやいや、そんなことないでしょう。

単純に彼にとって私がバカなだけだと思うんだけどなぁ…なんて考えながら、青い瞳をじっと見つめる。

安室さんは大きなため息をついた。うーん、やっぱりバカだと思われたか。


「嫌、でした?それなら今後気をつけますが」
「……」

零さんに、『バカ』って言われるの……別に、嫌じゃないんだ。
だって、いつもその声はとっても優しいから。


フルフルと首を横に振ると、安室さんは少しだけ笑った。

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作者名:re | 作成日時:2021年2月21日 12時

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