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108、夜のポアロにて ページ17

「はぁ…」
「A、お疲れ」

誰も居なくなった店内。ペンを置いて息をつけば、安室さんが声をかけてくれた。
お礼を言いつつ、ふと時計に目をやるとあと少しで閉店の時刻。
もうお客さんが来ることは無いだろう。

「安室さんも、1日お疲れさま。……ねぇねぇ」
「なんだ」

カウンターでクローズの作業を進めている彼の元に歩きながら声をかける。
作業中の手元から視線を逸らすことはないけれど、面倒くさそうに返事はしてくれた。

「どうして葵くんは、私と勉強してくれるんだと思う?」
「……」

『よいしょ、』なんて女の子らしくない声を出しながらカウンターの椅子に腰掛ける。
目の前の彼をじっと見つめていたら、大きなため息をついて私の方を向いた。

「突然どうした?」
「うーん、友達に葵くんと勉強するって説明したら " 彼にメリットがない " って断言された」
「……ひどい言われようだな」

私に冷たい安室さんだけど、この説明の仕方だと流石に不憫に思えたのだろうか。
少し眉を下げて、哀れみの視線を投げかけてきた。

「インターンでの知り合いだから…本気で警察庁に入りたいなら、ライバルだろって」
「ライバル…」

その言葉に違和感を覚えたようにポツリと呟いた安室さんは、1度止めた手をまた動かし始める。

「Aを蹴落としてでも自分が、なんて思うほど切羽詰まってないだろ。あいつ」
「そうだねぇ…」

葵くん、言葉では言わないけど就活に不安なんて1ミリも感じてないだろうし。多分自分が警察庁に入ることは当たり前だと思っているだろう。

……って、言い方悪いか。これ。
でも、その自信も嫌味に感じさせないのが彼の凄いところだと素直に関心する。

「まぁ、でも…」
「ん?」

「やたらお前に拘るな、とは思った」

拘る……そう、なのか?
腕を組みながら首を傾げる。

勉強を教えて貰うきっかけを作ったのは私。
彼と出会った日、『どんな風に勉強をしているか』と聞いたはずだ。それに答える形で、一緒に勉強しようと提案してくれたのが葵くん。

そして…… " お願い " を使ってまでその関係を続けようとしたのも、葵くんの方だ。

だけどやっぱり……好意というより、彼の優しすぎる性格のせいでは。

「お前が友達から言われたのはそれだけじゃないだろ」
「…う、うん。」
「 少なからず " 好意 " があるから。とか」

当たり。
人差し指を彼の方に向けて、" それ " と合図を送る。彼は呆れたように息をつきながら『だろうな』と呟いた。

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作者名:re | 作成日時:2021年2月21日 12時

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