素直な君との攻防戦2【降谷零】

52、情けない男 ページ10

｢お兄ちゃんには『苦いからダメ』って飲ませて貰えなかったけど、ずっと記憶に残ってたんだよね。…コーヒーを飲み始めたきっかけはそれ。んで、いつの間にかカフェイン中毒に……｣

｢なぁ。それ、Aちゃんの初恋〜？｣


ニヤニヤと楽しそうな萩原に顔を覗き込まれたAは一瞬フリーズして。


｢…っ、は、…はー？！ち、ちが！…違う！！｣

｢ん〜この慌て方は怪しいですねぇ、じんぺーちゃん？｣
｢おー。クロだろ、これ。｣

｢違う…ｯ！！ほんとに…｣

｢歳上好きかぁ〜そっか〜｣
｢っ、萩原！｣


顔を真っ赤にして否定し続けるA。この反応が余計に萩原達を楽しませるんだけどな…


｢今でも連絡取ったりしてる？｣

｢諸伏まで乗っからないでよ…。連絡なんてずーーっと取ってないし…どこで何してるのかも知らない｣
｢ホントはまだ気になってたり？偶然再会しちゃったらどうする〜？｣
｢どうもしないし、そもそも気づかない。あのねぇ、私をからかうのもいい加減に…｣



Aの初恋

彼女の大好物である、" コーヒー " を飲むきっかけになった男…


この話がスっと出てくるということは、今でも思い出したりするのだろうか。

もしかして、僕とコーヒーを買いに行く時も


｢ゼロ？顔怖いぞ｣
｢…｣

｢おーい。…俺の声聞こえてないな。あー…箸が折れた…｣


本格的なコーヒーの入れ方を勉強しようと決めたのはこの時だった。

思い出の中の人間には敵わないから…
だったら、新しい記憶で上書きするしかない。

なんて。

心の狭い嫉妬。本当に嫌な奴だな、僕は。

｢…はぁ｣
｢ゼロがため息ついてる｣








さて。
親友のヒロには、Aに好意があることはバレているだろうな、とほぼ諦めていたのだが…


結局のところ、卒業の少し前に僕の部屋を訪ねてきた全員から一斉尋問を受けることに。


ヒロに目配せするも、 " 俺は何も言ってない " の意思表示で首を横に振った。

ということは4人全員にバレた訳で…
そんなに分かりやすいのか？僕は。


どれだけ問い詰められても、Aの過去の話は絶対にしなかったし、僕が告白できない理由も話さず。

観念して、あいつらの予想通り…好きだという事実だけは伝えたが、『Aには絶対に言うな』と念を押し続けた。




と。
ここまでが、拗らせている僕の…警察学校時代の回想。

この後もAへの恋心を消すことは出来ず、片想いを続ける訳だから…

情けない男だと、嘲笑ってくれて構わない。

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