素直な君との攻防戦2【降谷零】

43、記憶のない初対面 ページ1

ーー

警察学校の同期である、愛川Aと初めて出会った時のことを、僕は全く覚えていない。




同じ教場だった彼女。

初日には恒例の自己紹介もあったはずだが、その時あいつが何を言ったか、どんな声で、どんな表情でいたのか…

さっぱり思い出せない。


ちなみに、卒業して何年も経つから…という理由では決して無い。

僕は記憶力がいい方だ。










『あ。パツキン首席くん』

萩原に強引に連れられた、警察学校のメンツを集めた合コン。

たまたま空いていた僕の隣に座って、唐突にそんな事を言ったのは
開始時刻から15分程遅れて来た奴だった。

…パツキン首席？


｢…それ、僕のことか？｣

｢君以外いないでしょう？…ねぇ、パツキン君さ。あそこの天パくんと夜中に殴りあってたことあったでしょ｣

｢は？｣

メニュー表を眺める彼女が顎で示したのは、松田で。


｢…あれ？コーヒーが無い｣

｢あるわけないだろ、バカか。居酒屋だぞここ｣
｢うるせー！…私、居酒屋って来たことないから…｣

｢え？…1度も？｣
｢うん｣
｢…｣
｢またバカにしてるでしょ。あ、たこわさ…｣
｢…｣


これが彼女との初めての会話。

ちなみに、松田との深夜の殴り合いから数ヶ月が経った頃の話だ。


｢松田とのこと、なんで知って…｣
｢んー寮の窓から丁度見えたんだよねぇ。何やってんのかなーって思ってたけど…あ！店員さん注文おねがいしまーす｣
｢おい｣


彼女を " 愛川A " と認識したのはこの時。
第一印象をこれとするのなら…


｢変な奴だな、お前｣
｢ぅおーい！失礼な…あ、その唐揚げたべたい｣


コーヒーが好きな、食い意地の張ってる " 変な奴 " 。









この日以来、何となく彼女を観察するようになった。


結論から言えば、とにかく目立たない。


成績も授業態度も普通。問題を起こすことも無く。
どうやら普通すぎて記憶に残っていなかったようだ。

まぁ…僕達5人が問題を起こしすぎて、周りなんか見てる暇も無かったせいかもしれないが。




あの合コンも人数合わせで無理やり呼ばれたと言っていた。
ちなみに遅刻の原因は『居酒屋行く途中でさ、コーヒー専門店を見つけたんだよね。めちゃくちゃ悩んで、結局お金無かったからやめたけど』らしい。

アホだ。



あの一件以来も、クラスでは相変わらず目立たない奴なのだが…何故か僕達と気が合った。話しかければよく喋る。

" 変な奴 " という第一印象は次第に " 面白い奴 " に変わっていったと思う。

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