素直な君との攻防戦【降谷零】

4、楽しいドライブ ページ4

｢おーい、パツキン。スマホ返せ。私いい加減仕事戻るから……ソレで班長に連絡するの。返せー。公務執行妨害｣

手を差し出しながら『早くしろ』とアピールするも、こちらを一瞥した青い瞳と視線が合っただけで、車内に流れる沈黙。



……無視かよ。

ハンドルを握る彼の横顔はやっぱり嫌味なくらい整っているから腹が立つ。
こいつが何考えてるのか、いつもいつも分からなくて余計に…

｢はぁ｣

｢…ため息をつくと幸せが逃げますよ｣
｢それなら君のせいだなぁ｣

あー、もう疲れた。
何も考えたくない。深く息を吐いて、目を閉じる。睡眠不足で働かない頭にぼんやりと浮かぶのは、今追っている案件と、デスクに積み上げられたその資料達。

降谷のコーヒーを飲んだばかりなのに、気が緩んでいるせいか眠くて仕方ない。けど、こんな事をしてる場合じゃない。


｢……し、ご、と。君も大好きな " お仕事 " 、戻るんです……よっ、と｣

運転席の方へ身を乗り出して、半ば強引に彼からスマホを奪い取った。
画面を付けようと思った瞬間、頬をグイッと掴まれて視線が絡む。

青い瞳に真っ直ぐ見つめられて、柄にもなく心臓が跳ねた。……なんか悔しい。

｢ちょ…｣
｢仕事？冗談やめてくださいよ。この後、僕とデートする約束でしょう？｣

｢あー、あの…トオルクン？わたし、デートOKしてませんけど｣
｢リニューアルした水族館が素敵らしいですよ｣
｢話聞け｣

こいつ。

大きな手を払いのけて、スマホの着信履歴を確認する。新着はなし。
1番上に表示されているのは、名前を登録していない番号…この相手は、滅多に電話なんか来ないハズの " 降谷 " だ。


｢あのね？私、君からの連絡で緊急事態だと思ったからさ…仕事抜け出してきちゃったんだよ？班長に怒られる｣

｢気にするな｣
｢気にするわ｣

こいつめちゃくちゃ頑固だから、私にはもうどうしようもないのだろうと悟れば、自然と出てくるのは大きなため息。

｢ていうか、なんで急に私の事呼んだの…勘弁してよ。全く｣


｢………僕と出かけるのはそんなに嫌か？｣

｢…ん？｣

それは、いつも自信満々な降谷に似合わず、余りにも小さな声だったから。危うく聞き逃しそうになった。


｢どうしたの？｣
｢…｣

問いに答える事はなく、何故かイヤホン(いつの間に付けてんだ)に指を触れたかと思うと、急に " 公安 " の表情になった降谷。

｢ねぇ、降谷……へ？…っ、ぅおーい！！！ぐぇっ｣

｢楽しいドライブでもしようか｣

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