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7、記憶の海 ページ7

ところ変わって、彼の車の中。
スポーツカー乗ってるのかよぉ、何から何まで完璧じゃないか。……私に冷たいこと以外は。

送って貰える嬉しさと、クローズ時間を過ぎても待っていてくれた彼の優しさが嬉しくて
思いっきり頬を緩めてお礼を言ったら、心底嫌そうな顔をされた。何で?


「何故、警察官?」
「ん?あぁ、話したことありませんでしたっけ?」

慣れないオシャレな車の中をキョロキョロと見渡していた私に、彼は突然そんな言葉をかけてきた。

「私が憧れてた人が警察官になったんですよ」
「……」
「あっ、下らないって思いました?」

何も言わない彼は、私の動機に呆れてるのかな?
流れる景色をぼんやりと眺めながら、遠い記憶の中の彼を思い出す。

小さい頃から、よく遊んでくれた大好きな。お兄ちゃん。
たくさん私のことを心配してくれて、何度も何度も守ってくれた。


自分の将来について意識したきっかけは、その人が警察になったことだったけれど。

「だけど……人を、守れる仕事って。いいなぁって思うんです」


私の両親は、とにかく私に興味が無かった。20も過ぎた今、冷静に考えれば元々子供が好きな人達では無かったのだろう。

いや……私が彼等にとって可愛くなかっただけなのかな?正直どっちだっていい。そんな事、直接聞く気にはなれないけれど。
共働きだったし、兄弟のいない私は家にいつも一人。
たとえ両親が家にいても、全く……構ってもらえなかったし。

寂しくて、苦しくて。部屋に一人でいると、不安に押しつぶされそうで。よく家から出てマンションの敷地内のベンチに座ってたんだ。

あの時……もしお兄ちゃんがいなかったら。私を見つけてくれなかったら。

今頃私は、どんな生活をしていたかな。


「……下らなくなんて、ない」

彼の言葉に、過去の記憶の海を漂っていた意識が引き戻される。

「なれるよ。立派な警察官に」
「安室さ……」

涙が滲みそうになった。
あの時、暗闇から私を何度も救ってくれたお兄ちゃんみたいに……安室さんの言葉は、私の心の蟠りをすっと溶かしてしまうらしい。
私が彼に守られたように。私もいつか……誰かを、守れたらいいな。

隣の安室さんにチラリと視線を向けると、少しだけ。微笑んでいる気がした。



「ちゃんと、勉強すればな」
「……ウス」


…気のせいだったか?

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作者名:re | 作成日時:2021年1月27日 18時

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