冷たい店員さんと私の関係 (ページ36)

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36、おかえりページ36

｢A、おかえり｣
｢…ただいま！｣

合鍵を使って彼の家に入ると、料理を作っている零さんが笑顔で迎えてくれた。
帰ってきた家に人がいる状況も、『おかえり』と言われることも。本当に久しぶりだった。

…最後に｢おかえり｣なんて聞いたのはいつだっけ。一人暮らしを始める前まで記憶を遡っても思い出せないくらい、昔のことかも。

情けないけど、彼の優しい笑顔を見たら普通に泣きそうになった。

あのね…零さん。
私ね、零さんと再会してから……昔のことを思い出しても辛く無くなったんだよ。

貴方のそばに居ると、いつも心があったかいの。
本当にありがとう。

｢暑かったろ？迎えに行ったのに｣
｢ううん、バスで来たし、零さんに会えると思ったら……暑さなんてへっちゃら｣

私の髪をそっと耳にかけながら、優しく微笑んでくれた。流れるように頬を撫でたその指が冷たく感じて、気持ちいい。

｢まだ少し時間かかるから、シャワーでも浴びてくるか？｣
｢うん、そうする。ありがとう｣

途中までバスを使ったけれど、炎天下の中を少し歩いただけで汗が滲む。窓から眺める夏は好きだけど、暑すぎるのは考えものよね…。

｢A｣
彼にお礼を言って、着替えを用意しに行こうと思った所で呼び止められる。足を止めて彼の方を向くと、優しく微笑んでいた。

｢テスト、お疲れ様。あとで一緒に出かけるか？｣
｢……！ほんと？！｣

零さんと…お出かけ？本当に？
一瞬で目を輝かせた私は、何度も大きく頷いた。

嬉しい！勉強は明日から頑張る！嘘じゃないよ！
善は急げ。私は弾かれたように走り出し、着替えをひったくりお風呂場へと向かった。

｢シャワー浴びてくる！！｣
｢焦るな｣

キッチンから彼の楽しそうな笑い声が聞こえた。

早く零さんのご飯が食べたいのに、私の髪を乾かすと言って聞かない彼と言い合い中。

｢大丈夫だもん｣
｢ダメだ。また風邪引かれたら困る｣

｢むぅ……そしたらずっとこの家に引きこもるもん｣

軽い冗談のつもりだったけれど。私がそう言うと、お皿を机に置いた彼の動きが一瞬とまった。

｢ふぅん？｣
｢え……？｣

視線を私に向けた彼は、見たことのない顔をしていた。ぞくりとするような、冷たい…瞳の奥に闇が見えるような、そんな笑み。

怖いよ！
な、なな？！どちら様ですか！

｢……それも悪くないかもな｣
｢ｴｯ…｣

私の元へ歩いてくる彼。その間、何故か私は床に足が縫い付けられたみたいに……全く動けなかった。