11、久しぶり ページ11
「お前に、話すことがある」
「うん」
お店をクローズした後、帰りの支度まで済ませた零さんがソファーで待っていた私の元にやってきた。
「Aの家と、俺の家。どっちにする」
「お兄ちゃんち!」
「"安室"と呼ばないと、今後車に乗せてやらない」
「安室さんち!」
手をピンと挙げながら笑顔で答えれば、彼は小さなため息をついてから『分かった』と呟いた。
ーー
"安室さん"?の家は、なんと言うか殺風景で寂しく感じた。
飲み物を用意すると言った彼に引っ付いて、一緒にキッチンまで移動。横から離れない私をチラリと見た彼は、少し困ったように眉を下げて笑ったけれど文句は何も言わなかった。
……安室さんなら確実に文句を言うところだ、ここは。つまり、もう核心をついてもいいのだろうか。
しばらく、ただ彼の手元を見つめていたけれど。
我慢できなくて私は口を開いた。
「……降谷零、なんでしょ」
自分でも驚く程、小さな声だった。だって……ずっとずっと、会いたかったんだもん。
どうしようもなく震える手を、ぎゅっと強く握った。
「あぁ……久しぶり、A」
そう言って微笑んだ彼に、思わず涙が溢れ出す。この優しい笑みは、安室さんとも違う。私がずっと求めていたものだった。零さん……ほんとに、零さんだ。
そんな私の頭を撫でて、固く握りしめた手をそっと解く。頬を伝った涙を拭ってから、優しく抱きしめてくれた零さん。
会いたかったよ。……ずっと、寂しかった。
彼の背中にぎゅっとすがりついて、声を上げて泣いた。零さんは、私が泣き止むまでずっと。
頭を撫でながら抱きしめ続けてくれたんだ。
彼に会うのは実に7年振りだったけれど、一瞬で昔に戻ったような。そんな気がした。
懐かしくて、優しい空気感。
リビングに通されて机を挟んで向かいに座る。
彼の入れた温かいコーヒーは、すっかり飲み慣れたポアロのと同じ味がして……とっても美味しかった。
私の様子を見て微笑んだ彼は、少し言いづらそうに口を開いた。
「……今まで、大丈夫だったか?」
彼が言いたいのは、うちの両親のことだろう。
「うん、大丈夫。大学に入ってから一人暮らししてるから」
私は別に、両親から暴力などを受けていたわけでは決してない。私に対してとにかく『無関心』だった。
本当にただ、それだけ。
必要最低限の会話すら煩わしそうな彼らの元にいた私は…嫌われるのと、どっちの方が辛いのかな……なんて昔からずっと考えていた。
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作者名:re | 作成日時:2021年1月27日 18時