君を振り回したい僕 2【降谷零】

43、何が違う？ ページ10

不快な腕の痛みを時折感じつつ、いつもより荒い運転で帰路に着いた僕は、Aの部屋の前に立った。


1度チャイムを押しても、いつものようにすぐドアが開かないことと……部屋から漏れる明かり。そして今の時間帯を踏まえるに。

恐らく " 入浴中 " であろう彼女が、来客を無視することは容易に想像できた。

けれど。
……どうしても今日、Aを逃したくはなくて。


ほんの少しだけ罪悪感を感じながら、チャイムをひたすら連打して強引に扉を開けて貰った。



｢…あむぴ｣

予想通り、キャミソールにショーパン…なんて、無防備すぎる格好で僕を出迎えてくれた彼女。

急かしたせいで、ろくに拭けていないらしい髪は、まだ水滴がボタボタと落ちる程に濡れていて。
あの組織のせいで腹立たしかった気持ちは、Aの姿を見た瞬間、嘘みたいに落ち着いてしまった。


｢Aさん、こんばんは。あれ？そんな格好で出迎えるなんて…僕のこと、誘ってるんですか？｣

｢…あれだけピンポン連打されれば、こうなるよね…｣

走ったらしい彼女はほんの少し息があがっていて、乾いた笑いを零しつつ疲れきったように思える。

…ごめんね。

濡れた彼女の黒髪から頬へ伝う雫が綺麗で、お風呂上がりのせいで火照った頬が、ひどく色っぽい。

チャイム連打が原因で、少し機嫌を損ねたらしいAがドアを閉めようとするのを笑顔で阻み、玄関へと身体を滑り込ませる。

｢ど、どうしました…？｣

｢ん？ちょっと、会いたくなって｣
｢…っ、う、｣


気がつけば、Aの火照った身体を強く抱きしめていた。

…首筋に顔を埋めれば、Aの身体から漂うボディーソープの匂いに、頭がクラクラしそうになって。

彼女の匂いは、どうしてこんなに好きだと思えるのだろうかと。ボディーソープも、シャンプーも、香水も…

全部、全部。

…愛しく思えて堪らない。


ベルモットの香水には、あれ程嫌悪感を抱くのに。一体、何がこんなに違う？




玄関で強く抱きしめているうち、僕の服は少しずつ濡れていく。
服が肌に纏わり付く不快感、なんて…少しも感じなくて。

｢ねぇ…濡れちゃうよ？｣
｢別に、気にしない｣

｢えぇ…？…っ、んっ？｣

Aが今更、僕から逃げることなんか無いって分かってはいても……

彼女を逃がしたくはなくて、後頭部に手を回し、冷たい彼女の髪をくしゃりと混ぜながら普段より熱い…その赤い唇を塞いだ。

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