君を振り回したい僕 2【降谷零】

58、僕が向かいたい場所 ページ25

ーー

｢降谷さん！！！｣

｢っ、僕は大丈夫だ…！早く重傷者を運べ！！｣

銃声が飛び交った中、負傷者は多数。

血の匂いが充満する倉庫で、視線を動かさず銃を構えたまま叫んだ。


ーパン！

と乾いた音を立てて、既に膝をついている目の前の女の腕を撃ち抜く。
彼女が辛うじて持っていた銃が、カシャンと音を立てて滑り落ちた。

それにもう1発銃弾を当てて、遠くへ弾き飛ばす。


僕の仲間に拘束された彼女の姿を見て、構えていた腕をやっと下ろした。

｢…っ、はぁ…、｣

警察側の怪我人も、予想していたより多い。
…まずいな。

倉庫内は酷い有様だが、ターゲット達は全員制圧が完了した。



終わった。


これで、本当に

……終わったんだ。



力の抜けた手から銃が滑り落ちる。

コンクリートに落ちたそれを見つめていると、少しだけ涙が滲みそうになって。


｢…ヒロ、…っ、終わったぞ……｣


出来ることならば。

ヒロと一緒に、この日を…迎えたかった。


だらりと…腕に血が伝う、不快な感覚がして顔を歪める。


｢降谷さん！貴方も病院へ…！｣

｢…自分で向かうから問題ない｣

｢待って下さい！その怪我では…！｣

｢ダメだ風見。僕以上に優先すべき怪我人が多すぎる。それに、ここの人手が足りない…僕の代わりに指揮を執れ｣

｢で、ですが…｣
｢早く！！死人が出るぞ｣

僕が叫ぶと、風見は表情を変えて頷いた。

｢すぐに応援が来ますから…！とにかく、降谷さんは応急処置をして、待って下さい｣

｢…あぁ｣

最後に風見が何を言ったか、今の僕にはよく分からなかった。
適当に返事をして、倉庫を後にする。

頭の中に響くサイレンの音。パトランプの赤。

…血の、赤。


耳障りな自分の荒い呼吸音に軽く舌打ちをして。

海風が僕の髪を撫でる。
大きく息を吐き、ポケットの中にある車のキーを握りしめた。


｢…僕は、生きてる…｣

これからも、Aの傍に…居られる。


銃弾が掠めた自分の腹を押さえて、すぐに車へと向かった。

周りの音すらよく聞こえないほど、ぼんやりとしていた僕の頭の中には、Aしか…居なくて。

｢……はぁ、っ、｣

早く病院へ向かうべきなのは、分かっている。

弾丸は腕を貫き、僕の身体の至る所を掠めた。何処が痛いのかも分からない。

僕より酷い怪我の人間が多いことは確かだが。

僕自身の出血が多い事も…勿論、理解している。


だけど。

バカな僕にとって、今1番に向かいたい場所は…


Aの傍だった。

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