君を振り回したい僕 2【降谷零】

55、続かない言葉の先に ページ22

｢降谷さん、少し…休んで下さい｣

再び書類を手にした僕を咎めるように、風見が口を開く。断る気には…なれなくて。

パサリと、紙の束をデスクへ戻した。


｢…すまない。仮眠を取ってくる｣

｢はい。…あ、例の件、対応しておきましたので｣
｢助かる｣

僕やAについてのSNS投稿があれば、すぐに対処しているが。
僕だけでは常に把握するのは難しく、風見に協力して貰うことが多い。

これまで口を出す事は無かった彼が、僕を呼んだ。

｢何だ｣

｢あの…やはり、彼女さん…ですか？｣
｢は？そんな訳ないだろ｣

散々、恋人を疑われるような行動をしている以上、否定するのも心苦しいが。

本当に彼女ではないから、『違う』と言うしかない。

｢…で、ですが｣
｢風見。｣

" 好きでしょう？ " と。言葉にはされずとも、伝わった。
大きく息を吐いて、風見に視線を移す。


｢ " 今の僕 " が。…一般人と付き合えると、本気で思っているのか？｣

｢…｣

あと少しで、潜入捜査は終わるかもしれない。

それでも。
今はまだ…Aに、気持ちを伝えるべきでは、ない。

鋭い瞳を向けられた彼は、言葉を詰まらせて…視線を下げた。


｢降谷さんは、真面目すぎます…｣

｢真面目？本当に真面目だったら…｣


恋人でもない、Aを。
好意も伝えず…何度も、抱くなんて。

彼女の優しさにつけ込んで。僕を拒絶しないAを
利用するような…最低なこと。

…しないだろ。

自分に苛立って、握った拳に力が入る。


｢いや、…何でもない｣

｢降谷さん…｣
｢忘れてくれ｣

立ち上がって、仮眠室へ向かう。



Aと肌を重ねる夜。
恐らく、彼女が理性を失う直前。

何か言いたそうに、僕の名前を呼んで。

その…言葉の続きを紡ぐ前に、ハッと息を詰まらせることがある。

そうなると、何度促しても話そうとしないから。
…僕は、『何も言わなくていいよ』の言葉の代わりに、彼女の唇を塞ぐ。


ただ、僕だけを見て。
僕に溺れて、僕を求め続けて。

何も考えなくていいし、何も言わなくていい。

僕の名前を呼ぶだけで

…それだけでいいから。


まだ、僕達の関係を。
問わないで。



Aの。
聞くことはできない、言葉の先に。

" 好き " だという感情が溢れていたら…いいと。

そう思うのは、僕の都合のいい考えだ。


いつかAの声で。

『零』と、呼んで貰えたら。どんな気持ちだろうか…なんて。

ベッドに身体を沈め、『馬鹿だな』と。
自嘲気味に笑った。

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