54、離れた心 ページ21
ーー
あの日…
Aが、『寂しい』と心を打ち明けてくれた…あの夜。
僕はそんな彼女を抱きしめて、夜明けまで傍にいてやることも出来ず。
暗闇の落ちる、静かな部屋に追い返してしまった。
それ以降…Aからは、1度も『寂しい』と言われる事はなくて。
いい大人の自分が、どうしてこんなにも身勝手なのかと呆れるが、僕は…それが。
Aに心を打ち明けて貰えないことが、
切なくて堪らなかった。
……本当の " 僕 " の事。
Aにひとつも教えられない、くせに。何が切ない、だ。
『寂しい』と言わなくなってからも、Aの態度は以前と変わることは無く。
今まで通り…僕に笑顔をくれて、優しい温もりをくれて、美味しそうに夕食を食べてくれて、僕を。
いつだって、受け入れてくれた。
単純に、" 寂しい " と思うことが無いくらいに
Aの心が安定しているだけなのか…
それとも。
……あの僕の行動が。
1度近づきかけた筈のAの心を、遠ざけてしまったのか。
そんなの、所詮他人である僕には分からなかったし……増して、本人に聞くことなんか。
絶対に、できなかった。
ー ふ…や、…さ
疲れが溜まっている日は、例え仕事中でもいつも以上にAの事が頭の隅をチラつく。
彼女の甘い声が聞きたいとか、強く抱きしめながら眠りたい、とか…キスしたいとか。そんな身勝手な欲ばかり。
デスクに積み上がった資料を確認しつつ、キーボードを叩きつける力は、Aに会えない苛立ちからか、自然と乱暴になって…
「降谷さん!」
突然、耳に届いた声に意識が目の前のモニターから引き戻された。
声のした方へ視線を移す。
「…っ、あぁ…風見」
「驚かせてすみません…何度もお呼びしていたんですが…」
「そうか。…すまなかった」
深いため息をついて、椅子に凭れながら目頭を抑える。……風見の声も、気配にすら気が付かないなんて。
…思ったよりも疲れが溜まっているようだ。
コトリ、と音がして僕のデスクに缶コーヒーが置かれた。
「お疲れでしょう?…何日もこんな状態ですから…」
「いや、大丈夫だ。…コーヒー、ありがとう」
プルタブを開けながら、小さく息をつく。
窓の外には暗闇が落ちていて…嫌でも、あの夜を思い出す。
寂しかったはずのAは、暗い部屋でひとり…何を、考えていたのだろう。
そんなの…やっぱり、僕に分かる筈もなくて。
ふわりと香ったコーヒーを、一気に喉へ流し込んだ。
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re(プロフ) - arisuさん» arisuさん、2人の視点のお話を読んで下さって、本当にありがとうございます…!!温かいお言葉、とっても嬉しいです😭✨✨書いて良かった…!楽しんで頂けたようで、私はとっても幸せです(*^^*)💕こちらこそ、ありがとうございました!✨ (2023年4月21日 10時) (レス) id: 78ebe0a207 (このIDを非表示/違反報告)
arisu - 夢主視点も降谷さん視点も最高でした🥹ありがとうございます✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨ (2023年4月20日 14時) (レス) @page31 id: 8db8ff9f57 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - やっちさん» やっちさん、コメントありがとうございます…!✨最高に良かったの言葉、めちゃくちゃ嬉しいです!!書いて良かった😭✨夢主ちゃん羨ましいですよね🤣💕温かなコメントを頂けて、とっても幸せです(*^^*)本当にありがとうございます!! (2022年7月21日 12時) (レス) id: 6b9303296e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 安室さん最高に良かったです!夢主さん羨ましい〜 (2022年7月19日 14時) (レス) @page31 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 自宅警備員Nさん» 自宅警備員Nさん、コメントありがとうございます…!本当ですか…!(;-;)✨キュンキュンして頂けたようで、私はとても幸せです!評価も押して下さって感謝しかありません(;-;)✨これからも頑張りますね(*^^*)ありがとうございます…! (2021年10月18日 13時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:re | 作成日時:2021年8月5日 20時