50、抱きしめたかった ページ17
「Aさん、眠い?」
「…ぅ?…ん…?眠くないよ…?」
いや、嘘だろ。
一瞬寝かけていたし。
「本当は眠いでしょう?」
「…ねむくない」
すごく眠いだろうに、こんなに無理をするなんて。
Aは、相当帰りたくないらしい。クスクスと笑いを零して、優しく頭を撫でた。
今日は特に、人の温もりが欲しい気分なんだろうか。
僕も、Aと出会ってから何度も経験しているから…よく分かる。
Aも…
" 僕だから " 、傍にいたいと思ってくれていたら…いいのに。
『…今日、泊まっていきますか?』
彼女の耳元でそっと囁いた直後。
Aが返事をする前に、" 降谷 " の方の携帯が鳴った。
…恐らく風見だろう。緊急の案件か。
眠そうにしていた筈のAが、着信音に肩を揺らして…弾かれたように僕から離れる。
「電話?」
「うん。…Aさん、ごめん…」
当たり前だけど、この場では出られない。
着信音が響く中。
携帯を確認することも無く…ただ謝罪をすると、彼女はすぐにハッとして微笑んだ。
「…ううん!私、すぐ帰るから!」
「ごめん。仕事の電話で…」
僕から離れていくAの腕を掴みたい衝動に駆られて、焦る。
彼女の体温も、すぐ近くで感じていた匂いも……鼓動も。
…本当は、離したくはないのに。
自分の荷物を手に取った彼女は、焦ったように玄関まで走る。
「あむぴ、今日もありがとう…!」
『お仕事……がんばってね』そう呟いて微笑んだAの表情から、寂しさを感じて。
謝罪の言葉も、別れの挨拶すら、告げる前に。玄関の扉が閉じた。
すぐに携帯を手に取り、折返す。
「電話、出られなくて悪かった」
『いえ!緊急の案件で……降谷さん。今、動けそうですか?』
スピーカーに切り替えて風見と話しつつ、スーツに着替える。
まだ、僕の指にはAの柔らかな髪の感覚が残っていて。
手を強く握りしめた。
…本当は、寂しいと言うAを…一晩中、抱きしめてやりたかったんだ。
「あぁ。今から向かう」
電話を切って、外へ出る。ふわりとした風が、僕の頬を撫でる。
もう、彼女の匂いは無い。
Aの家の前を通る時。
いつものような、優しい灯りは漏れていなくて。…静まり返った通路と、暗闇が落ちる彼女の部屋に。
胸がひどく締め付けられた。
『寂しい』と…心を打ち明けてくれたのに。
こんな時、傍に居てやれなくて、本当に
「ごめん…」
小さく呟いて、僕は走って車へと向かった。
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re(プロフ) - arisuさん» arisuさん、2人の視点のお話を読んで下さって、本当にありがとうございます…!!温かいお言葉、とっても嬉しいです😭✨✨書いて良かった…!楽しんで頂けたようで、私はとっても幸せです(*^^*)💕こちらこそ、ありがとうございました!✨ (2023年4月21日 10時) (レス) id: 78ebe0a207 (このIDを非表示/違反報告)
arisu - 夢主視点も降谷さん視点も最高でした🥹ありがとうございます✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨ (2023年4月20日 14時) (レス) @page31 id: 8db8ff9f57 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - やっちさん» やっちさん、コメントありがとうございます…!✨最高に良かったの言葉、めちゃくちゃ嬉しいです!!書いて良かった😭✨夢主ちゃん羨ましいですよね🤣💕温かなコメントを頂けて、とっても幸せです(*^^*)本当にありがとうございます!! (2022年7月21日 12時) (レス) id: 6b9303296e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 安室さん最高に良かったです!夢主さん羨ましい〜 (2022年7月19日 14時) (レス) @page31 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 自宅警備員Nさん» 自宅警備員Nさん、コメントありがとうございます…!本当ですか…!(;-;)✨キュンキュンして頂けたようで、私はとても幸せです!評価も押して下さって感謝しかありません(;-;)✨これからも頑張りますね(*^^*)ありがとうございます…! (2021年10月18日 13時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:re | 作成日時:2021年8月5日 20時