君を振り回したい僕 2【降谷零】

44、掻き消されるべき言葉 ページ11

寝室の床にクッションを敷き、そこにペタンと座るAの髪を、ベッドに腰掛ける僕が丁寧に乾かしていく。

｢…｣
ドライヤーの音を考慮してか、彼女は特に何か喋り出すこともなく…ひたすら大人しくしていた。

その姿は、普段の子供っぽいイメージとは違っていて、少しだけ笑いそうになる。

｢Aさん｣
｢…｣

｢Aさーん｣
｢…｣

｢A｣

ひどく小さな声で、何度か名前を呼んだ。

全部。
ドライヤーの音にかき消されて…彼女には届かなくて。
…届いて欲しくは、なくて。



『…好きだよ』

と。
自分でも聞こえないくらいの声で、呟いた。

変わらず大人しくしている彼女の後ろ姿を眺めて、ひとり微笑む。

…いずれ、ちゃんと伝えるから。




スイッチを切った瞬間、Aは僕を見上げるように振り返った。

｢ん？｣
｢あむぴ…乾かすの上手だね。慣れてるの？｣

その言葉にクスクスと笑って、彼女の頬を優しく撫でる。
慣れてる、って何だ。

｢ドライヤーに上手い下手があるんですか？｣
｢ｱ…美容室以外でされた事ないから…わかんない…けど｣

ほんの少し首を傾げたAは、『でも、すごく気持ちよかったから』と呟いて微笑んだ。


｢…それは良かった｣

｢ありがと｣
｢もしかして、寝そうになってました？｣
｢…｣

｢あれ？図星？｣
｢……｣

サラサラになった綺麗な黒髪を優しく撫でて
『はい、もういいですよ』と告げる。
すぐに立ち上がったAは、ドライヤーを仕舞うと僕に向き合って膝の上に跨った。

｢Aさん？｣
｢…｣

頬を赤く染めて、そのまま僕の首に腕を回す。


Aがこんなに積極的なのは珍しいな…なんて。

彼女を見つめながらぼんやりと考えていたら、細くて綺麗な指先が僕の唇をそっとなぞって。

…軽い快感が走る。



『安室さん…キス、して…？』

…いつの間にこんなの覚えてきたのか。

ひどく甘い声で囁きながらキスを強請る彼女に、
『うん』と微笑んで。

彼女の腰にしっかりと手を置いて抱きしめながら、優しく口付けた。







電気を消した寝室は、リビングからの明かりが頼りで。

僕がワイシャツを脱いで、ベッドから乱雑に床へ落とした直後。
Aが、『あ…』と声を漏らした。

｢やっぱり。また、怪我してる｣

包帯に気がついた彼女は、悲しそうな表情をしながら…そっと。

優しく撫でるように、僕の腕に触れた。


｢あぁ…バレちゃいました？｣

｢…" バレちゃいました？ " じゃないよ…｣

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