3、部屋の前にて ページ3
ーー
「…はぁ。」
無意識のうちに小さなため息を零しながら、車を降りる。
組織にポアロに警察庁に…目が回りそうなほど忙しい日々。
久しぶりに日付が変わる前に帰って来られたな…なんて考えながら、重たい身体を引きずって部屋まで歩く。
「…ん?」
微かに聞こえてきた、女性の声。
僕の住むアパートはペット可で、普通の部屋に比べれば少しは防音性が高い……のに、ここまでダイレクトに声が聞こえるということは。
通路に、誰かいる。
自分の部屋へと歩を進めるにつれ、ぐすぐすと、今にも泣きそうな声色が近くなる。
「あいてよぉ…おねがい…」
ハッキリと聞こえたその声には、聞き覚えがあって。思わず足を止めた。
…何故、彼女が?
「……何、してるんですか?」
彼女… " 絢瀬A " は、必死に部屋の鍵を開けようとしているが、どうも上手くいかないらしい。
…それでグズっていたのか。
いや、問題視すべきはそれじゃない。
彼女が必死に鍵を開けようとしているそこは…
" 僕の部屋 " だ。
……なぜ家がバレた?
彼女、少し変わった人だとは思っていたが…こういうベクトルの変人なのか。
マズイな、気絶させて…風見に連絡を取るべきか?
僕が声をかけると、『ぅ…え?』なんて気の抜けた声を上げた彼女がゆっくりとこちらを見つめた。
その頬は赤く染まっていて、足元はすぐにでも崩れそうな程、覚束無い。
そして……眠りかけのような、とろんとした瞳。
全てがポアロで見かける彼女とは違っていて。
あぁ、なるほど。…酔っ払いだ。
「あれれ〜?あむぴ…?な、んで…ここ、に…?」
「あ、ちょっ!……っ」
『何でここに?』は、僕のセリフなんだが。
突っ込む前に、彼女は膝から崩れ落ちた。
急いで駆け寄るも、完全に閉じた瞼。
…っ、くそ!
今日はやっと、ゆっくり眠れると思ったのに…もう、いい加減にしてくれ。
「寝ないで下さい!」
「む、り……」
「無理じゃない!」
火照った彼女の頬を何度も叩くも、そのまま寝息を立て始めた。
途端に、しんと静まり返る通路。
僕の腕の中には、気持ちよさそうな規則正しい寝息と、アルコールのせいで火照った身体。
伏せた長い睫毛…上気する頬より、ずっと赤くて艶のある、唇。
仕事帰りとは違い、下ろしている髪がサラリと落ちる。
彼女の顔にかかる綺麗な黒髪をそっと梳くと、眠ったまま何故かふにゃりと微笑んだ。
「…はぁ。」
……僕にどうしろと。
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真実(プロフ) - reさん» どの小説も読みやすかったです。一目惚れのお話は読んでいてこんな一目惚れの仕方もあるのかと感心しました!リクエストの件、ご無理はなさらずに形に出来そうであればお願いします!! (2021年8月6日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» ぇええ?!全部読んで下さったのですか…?!(;-;)貴重なお時間を私の小説に割いて頂いて…う、嬉しすぎます…!本当に幸せです、ありがとうございます(;-;)一目惚れのお話も読んで頂けて幸せです…!リクエストのお話もいずれ形にできるよう、頑張りますね!^^ (2021年8月6日 7時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - reさん» 読んでいてお互いの気持ちを考えているのが分かるのでキュン死するかと思っています(因みにreさんの小説は全部読破しております/リクエストした際に言っていた降谷さんの一目惚れの小説も読みました) (2021年8月5日 21時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» 真実さん、コメントありがとうございます…!2人の、お互いを大切に想う気持ちを伝えられているのなら、私はとても幸せです…(;-;)とても嬉しいお言葉、いつもありがとうございます…!2人の幸せのために、続編も引き続き頑張りますね!^^ (2021年8月5日 19時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - 夢主には夢主の苦悩、降谷さんには降谷さんの苦悩と言うものがreさんの小説から痛いほど伝わってきますね。けど、それはお互いを大切に思っての事だと思うと切ない気持ちになります。続編も楽しみにしてます!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:re | 作成日時:2021年7月25日 15時