15、僕が欲しかったのは ページ15
「…」
「こ、こんばんは…あむぴ?」
チャイムを押したのは僕のくせに、安室透の笑顔なんか作れなかった。
何を言ったら良いのかも分からない。そもそも、自分の行動の理由すら分からないんだ。
辛うじて、『…A、さん』と。
彼女の名前をぽつりと、呼んだ。
明らかにいつもと違う様子の僕を心配そうに見つめたAは、手を伸ばして……そっと、僕の頬に触れる。
…それだけで。
何故か、胸がじわりと。温かくなった気がした。
「…あむぴ、大丈夫?」
「……疲れた」
「疲れたの?」
「…ん」
「お腹減った?」
「……うん」
「残り物で申し訳ないけど…たべる?」
返事を聞く前に、僕の手を優しく握った彼女は。
理由を聞くことも、嫌な顔をすることもなく。僕を部屋へと招き入れてくれたんだ。
「ご飯、温めるから…座って、ちょっと待っててね」
そう言った彼女が、僕を椅子へ誘導する。その瞬間、ふわりと…Aの匂いがして。
『少しだけ…抱きしめても、いい?』
とか。僕はそんな事を言ったような気もする。
気がつけば、彼女に優しく抱きしめられていて…『お疲れさまでした。…あむぴ』なんて、優しい声が耳元で聞こえて。目を閉じながら、その体温を感じた。
温かな食事を出してくれた彼女が、僕の向かいに座る。
「そうだ!あとねぇ、甘いものもあるよ。今日はお菓子作ったから…ご飯の後に一緒に食べようね、あむぴ」
そんな彼女の笑顔を見ていたら、柄にも無く。涙が溢れ出しそうになって。
なんとか堪えて、『ありがとう』と笑顔を作った。
この部屋に居ると少しずつ。僕のささくれた心が穏やかになっていくように思えて……自分でも驚いた。
僕は… " 人の温もり " を求めて、苛立っていたんだ、って。
Aが美味しそうにお菓子を食べながら、僕に笑いかける姿を見て、漸く気がついた。
「……美味しいです。…Aさん、お菓子作るの得意ですか?」
「ん〜?寂しい女だから、休日は暇で。お菓子作るの楽しいから……あ!あむぴ!今度、一緒に作る?」
「えぇ。是非」
お礼を言って、『おやすみなさい』と挨拶をして。
彼女の家を出る時にはもう。僕の心はすっかり穏やかになっていた。
……夜遅くに、恋人でもない男を招き入れるな。
なんて、当たり前のことにやっと気がついたけど。
突然押しかけた " 僕 " が言えたことじゃないよな。と、帰宅した1人の部屋で苦笑した。
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真実(プロフ) - reさん» どの小説も読みやすかったです。一目惚れのお話は読んでいてこんな一目惚れの仕方もあるのかと感心しました!リクエストの件、ご無理はなさらずに形に出来そうであればお願いします!! (2021年8月6日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» ぇええ?!全部読んで下さったのですか…?!(;-;)貴重なお時間を私の小説に割いて頂いて…う、嬉しすぎます…!本当に幸せです、ありがとうございます(;-;)一目惚れのお話も読んで頂けて幸せです…!リクエストのお話もいずれ形にできるよう、頑張りますね!^^ (2021年8月6日 7時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - reさん» 読んでいてお互いの気持ちを考えているのが分かるのでキュン死するかと思っています(因みにreさんの小説は全部読破しております/リクエストした際に言っていた降谷さんの一目惚れの小説も読みました) (2021年8月5日 21時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» 真実さん、コメントありがとうございます…!2人の、お互いを大切に想う気持ちを伝えられているのなら、私はとても幸せです…(;-;)とても嬉しいお言葉、いつもありがとうございます…!2人の幸せのために、続編も引き続き頑張りますね!^^ (2021年8月5日 19時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - 夢主には夢主の苦悩、降谷さんには降谷さんの苦悩と言うものがreさんの小説から痛いほど伝わってきますね。けど、それはお互いを大切に思っての事だと思うと切ない気持ちになります。続編も楽しみにしてます!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:re | 作成日時:2021年7月25日 15時