私に居場所を下さい

30、帰る場所 ページ30

｢本当は、とっくに戸籍の調査は終わってる。それに……新しいものを作ろうと思えば、すぐに手配出来ることも。｣

ー お前だって、もう…勘づいてるだろ？


そう問われてこくりと頷く。
だってもう…１ヶ月だ。

降谷さんがいくら『骨が折れる』と言ったって、こんなに時間がかかる訳…ないでしょう？

そしてやっぱり…この世界に、私の戸籍は…無かったんだ。


｢Aから問われたら…話そうと思っていたんだが｣
｢……｣

｢そう、考える時点で、僕は既に…お前に依存していたんだろうな｣

｢…降谷、さん？｣


｢だって｣

ー 戸籍さえなければ、お前をずっとここに閉じ込められる。


そう自嘲気味に呟いた彼は、私の頬を撫でて唇にキスを落とした。


｢他の世界から来た……というのは、正直…未だに信じられないん、だけど｣

｢ハ、ハイ…ですよね。私だって、" 夢だったのかな？ " って、思うくらいですから。降谷さんにとって、信じられないのは当たり前だし……それでいいんですよ｣

１ヶ月も経てば、もう…自分すら信じられなくなる。何が現実か、分からない。

前の世界…なんて本当にあったのかと。何度も疑いたくなって。


けれど。やっぱり、戸籍が無い…という事実が、辛うじて私自身を…肯定して。繋ぎ止めてくれた気がした。


『ごめん』と呟いた降谷さんは、困ったように笑って…話を続ける。


｢最初は、純粋に…僕の秘密を知っているお前を、監視するだけのつもりだった。完全に信用、出来るまで｣

｢うん｣

｢だが……僕のことを全て知っているAに、いつしか安心感を覚えるようになった……気がする｣

安心感…？

監視対象のはず…なのに？
降谷さんの秘密を知ってる…怖い女、のはずなのに。

｢安室透として、偽って生きていること……警察官、の…僕が。バーボンとして、犯罪行為を繰り返すこと。｣
｢…｣

彼の声はどこか苦しげで、私の胸は締め付けられるように痛んだ。
そうだよね。正義のために生きてる…貴方が。犯罪行為なんて、本当は、したくない…よね。


｢その事実を…僕の、秘密を。お前は全て知ってる｣
｢うん｣

｢知った上で、こんな僕を…無条件に受け入れて、『好き』だと。何度も言ってくれた｣

｢だから。違いますって。…… " 大好き " 、の間違い｣

クスクスと笑った彼は、『ありがとう』と呟いて軽いキスを落とした。

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