ht×喉 ページ33
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ザーｯと本格的な音を立てて降り始めた雨を、「天気予報の確認怠るんじゃなかったなぁ」とか、「一社会人として折り畳み傘位持ってろよ」とか考えながらぼんやりと良くなる気配の無い空を会社のロビーから眺める。
仕事でちょっとミス見付けてクソ見たいな上司に怒られて「いつもオメーのミスをカバーしてんのは誰だと思ってんだクソが」なんて叫び出したくなりながらも苦痛の業務をやっと終えて。
わたしの心もお空も立派に雨模様だわばーか。
あぁもう早く傘持った王子様わたしの事お迎えに来てくれないかなぁ、なんて。
「……何してんの？A」
「……神様って居るんだね」
「は？」
首を傾げながらわたしの手元を訝しげに見た王子様のらんちゃんこと、ひとらんらん。
今朝、「お互い頑張ろうね」って玄関先で固い握手を交わして家を出たのは記憶に新しい。同棲ってほんと素晴らしい。
「……傘、忘れたんでしょ」
「うん」
「そんな笑顔で誇る事じゃないからね」
うりうり、なんて言いながらわたしの頭をこずくらんちゃん。ちょっとだけ困った様に笑うその顔にまた“すきゲージ”が音を立ててアップする。
「どうせ家一緒だし、入ってく？」
「入る！」
広げられた藍色の普通の傘より少し小さめの折り畳み傘に、成人済みの男女が肩を並べて入ると、まぁ言わずもがな狭い。それに文句を言わずわたしの方へ傘を傾け自分の肩を濡らすらんちゃんに「この男本物の王子様か？？」と問い掛けたい。きっと問い掛けたところで返ってくるのはいつもの幸せそうな笑顔と「ん？」なんてわたしの話を聞くときの優しい声だけなんだろうけど。
足元でわたしが歩く度に小さく跳ねる雨を眺めながら、らんちゃんがさっきわたしを誘う際に言ってくれた言葉を口の中で復唱する。
「どうせ家一緒だし」。
さらりと言われたけど、家が一緒なんて幸せ、こんなに簡単に摂取していいんだろうか。
「……家一緒って響き、なんか、幸せだね」
「わたしも今おんなじこと考えてた……」
隣を見ると少し驚いた様な、でもってちょっと嬉しそうならんちゃんの顔。やばい、幸せ過ぎてにやける。
「……こんな幸せな雰囲気ぶち壊す酷い事、言ってもいい？」
「……ん？」
「あ」
「あの男誰」
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