pe×うなじ ページ30
.
わたしの背後にはかみさまがいる。
だれよりも優しくて、だれよりも綺麗で、だれよりも崇高なわたしのかみさま。
この世に存在するどんな人間よりも、どんな彫刻よりもお手本のような微笑を湛えたかみさまのことを、わたしはよく知らない。
すこうしだけ伸びた白藍の髪をひとつに括り、甚平によく似た上等な和服を身にまとっている。
裾から覗く腕や脚にはほどよく筋肉が付いており、真っ白な肌はきっと太陽の陽射しを知らないのだろう。不健康に見えないそれがむしろ不思議で仕方なかった。
かみさまの容姿を説明するにあたって、特筆すべきことがふたつある。
ひとつめ、頭の上にふよりふよりと浮かぶ光輪。
金よりは銀、もしくは白に近い色で発光するそれに棒や紐などはついていない。
どういう仕掛けで飛んでいるの、とかみさまに尋ねても「まあかみさまだからね」の一点張りであった。
ふたつめは、顔を隠す雑面である。
黒字のやわらかな素材の布に、白字で「神」とだけ書かれたそれは、日常的な情景において異様なまでの存在感を放っている。
「やっほう、Aちゃん。きょうも元気に俺のことが見えてるかな〜？」
「え、はい。…そんなに目の前で！手ぇぶんぶんしなくても！見えてますからっ！どいてください！」
「えぇ〜？つまんない、今日もまたオシゴト？オシゴトの間はAちゃんに話しかけられないから、ほんとうに退屈なんだよね。」
「はいそうです、お仕事です！わたしはごく普通の一般OLなんで、お仕事しないと食べていけないんです！だから、実体化してお仕事行く邪魔するのやめてくださいぃ！」
平日の朝、7時半。
都内のやすい1Lアパートの一室にて、この問答が繰り広げられるのももう何度目だろうか。
毎朝毎朝、仕事に行くと告げれば際限のある(らしい)実体化を駆使してなんとか止めようとしてくるかみさまは、随分と精神年齢が低いように見受けられる。
けれど、そんな素性もわからぬかみさまに甘いわたしも大概なのだ。
もちろん彼はかみさまであって、きっとわたしのこんな思考も筒抜けなのだろうが、にこにこと微笑みを湛えるばかりのかみさまにそれを聞くのはきっと「無粋」なのである。
「きょうも行っちゃうの？行っちゃう？」
「…はい、いってきますね。しんぺい神さん。」
「うん、いってらっしゃいAちゃん。早く帰ってきてね！？」
かみさまが現れて、早三年。
わたしも随分絆されてしまったなあ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
