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そこでやっと千羅先生はその歩みを止めて、くるりとこちらに振り返る。
「ごめん、ちょっと手荒になった。だいじょ....うぶじゃ、なさそやな....」
私の顔を覗き込んだ先生は、苦笑いをしてそう言った。
初めてのナンパと、初めて聞いた先生の怒鳴り声。その二つに混乱してしまった私は、恐怖にぽろぽろと涙を流してしまっていた。
そんな私と目線を合わせる様に屈み込んだ千羅先生は「怖かったのに余計怖がらせたな、ごめんな」と言いながらその涙を拭い、頭を撫でてくれて。そこでやっと、さっきまでの先生の怒りは演技だったのだと気がついた。
先生、補導のフリして私のこと助けてくれたんだ。先生が来てくれなかったら、私あの人達に連れてかれてたかもしれない....。
いつも通りに戻った先生の優しい声色と体温に安心して、気持ちに反してまたぼろぼろと涙が溢れた。
「ここだと寒いやろ、車の中入ろか。エンジン掛けるから」
そう言って立ち上がった千羅先生は助手席の扉を開けてくれた。促されるままに車に乗り込むと「ちょっと待っててな」と声を掛けられそのドアが閉まる。先生は精算機に向かったらしい。
....その隙に鞄から鏡を取り出して確認すると、予想通りのひどい顔になっていた。悪戦苦闘しながら初めて塗ったマスカラも涙で崩れてしまっていて、慌ててハンカチで目の周りを拭った。先生にひどい顔見られちゃったな。
その直後、丁度先生がこちらに戻って来て運転席に座った。
「落ち着いた?」
「はい、その....ごめんなさい」
「そこは『ありがとうございます』やろ?」
くすりと笑った先生は「ベルトしてるね、車出すよ」と声を掛けてくれた。「はい」と小さく返事をして、その後にありがとうございますと呟いたけど、先生は何も言わなかった。
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らぱん( ・×・ )(プロフ) - 辰海恋歌さん» コメントありがとうございます! 曲通りに終わらせましたが、この先きっとこの二人は幸せになってくれると思います!こちらこそ楽しんで頂けて嬉しいです、最後まで読んで頂きありがとうございました! (2019年4月8日 7時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - 完結おめでとうございます。一言言えるのは、この中では、あの子が曲名通りになれて良かった…ということです。素敵で、もどかしくて、そして温かい作品を、本当にありがとうございました。読んでいてとても楽しかったです。 (2019年4月7日 23時) (レス) id: b18219f6f9 (このIDを非表示/違反報告)
らぱん( ・×・ )(プロフ) - てこゆのさん» ありがとうございます!私も似たような現象起こるのでお気持ち分かります(笑)でもこうしてコメントして頂けるだけで嬉しいです、ありがとうございます! (2019年4月1日 11時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
てこゆの(プロフ) - 完結おめでとうございます!!つい最近になってこの小説を見つけたのですが、読み始めた瞬間から引き込まれてしまいました。他の方のように何かしっかりとした感想を書こうとしても、あまりにも素晴らしくて言葉が出てきません...!胸がいっぱいです!! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 5d44cadab1 (このIDを非表示/違反報告)
らぱん( ・×・ )(プロフ) - Rinさん» 最後まで読んで頂きありがとうございます!クオリティ高くなってますでしょうか、嬉しいです....!曲への愛を詰め込んだ結果こんな感じになりました(笑) ありがとうございました! (2019年4月1日 7時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らぱん( ・×・ ) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=d9fece3f785bc7d3ebaeeecd6103e95f...
作成日時:2019年3月19日 18時