一番にはなれない【💛】 (ページ41)

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「じゃあ、今日はここまで～。今日の課題プリントは前回の振り返りも入ってるから気ぃ付けてな～」

そうして授業終了の挨拶をすると、丁度いいタイミングでチャイムが鳴った。生徒たちは気が抜けたように伸びをしたりしながら、家路に着く準備を始める。

その二年生の教室を出て、いつもの様に職員室に顔を出し、その後すぐに資料室に向かった。荷物を抱えたまま鍵を開け、むわりと篭った空気を無視して冷房のスイッチを入れる。

....普段使っている、この教室の一番奥にある片袖机。
空調の音だけが響くその部屋の中でその椅子に座った時、ふと過ったのは、ショックを受けたAの顔だった。

昨日の今日だ。当然と言えば当然だが、五時半を過ぎてもAは現れなかった。

そうして脳裏にこびりついて離れないその表情をどうにか無視しながら仕事をして、夕方六時、十分前。
こんこんこん、とノックの音が響いて、やっとその扉が開いた。

「失礼します」

....課題のプリントを片手に現れた彼女は、普段通りの笑顔だった。

「遅くなってごめんなさい」なんて言うAからプリントの束を受け取る。
普段の様に椅子に座らない彼女に、きっとすぐにでも帰りたいんだろうな、なんて察した。
けど、ずっとその顔を思い浮かべながら過ごしていたからか、はたまた罪滅ぼしのつもりか。....何となくその時はそのまま帰したくはなくて、時間稼ぎのように会話を繋げる。

「ええよ、他の用事でもあったん？」

「ちょっと考え事してて....」

「考え事？」

疑問符で返したのに返事がなくてパソコンから目線をずらすと、その場で音も無く静かに泣く彼女が居た。
顔を歪めることも無くただただ雫をぽろぽろと零す彼女に、驚いて声が出せなくなってしまった。

「....ごめんなさい」

そう言いながら僕に近付いてきた彼女は、この前よりずっと優しく、そっとキスをした。

そうして放心状態の僕に涙を流しながら微笑みかけて、すっかり涼しくなった部屋から出ていったAに、僕は声を掛けることさえも出来なかった。

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