一番にはなれない【💛】 (ページ2)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:66,468 hit

2 ページ2

・

異動でこの学校に来て、社会科の選択教科である世界史と日本史、現代社会の3つを受け持つことになった僕は、更に初年度だと言うのに何故か3年生のクラス担任も任された。

....3年生と聞いて驚いたものの、校則を大幅に違反するような子は1人も居ない優秀なクラスだし、他の学年や他のクラスよりはずっと楽な所を割り当てられたのだろう、と5月頃には気が付いたのだけれど。

4月のホームルームで学級委員やら何やらを決めるのは、どこの学校でも大体一緒だろう。そうして適当に割り振られた役割の中で、社会科担当になったのが彼女だった。

社会科担当は、自分が選択していない授業を含めて社会科の課題を集めてこの資料室に持ってくる。それが決められた仕事だが、彼女は課題提出の度に課題の束に一言書いた付箋を毎回添えてくれる、変わった子だった。

初めは誰と誰が課題を忘れたそうです、とかそんな事務的な内容だったそれは、次第に「お疲れ様です」なんて労いの言葉が書き足されたりし始めた。
それが何だか嬉しくて、5月の休み明け、放課後に課題を持ってくるであろう彼女をその部屋で待ち伏せた。

普段なら僕がこの部屋に居るはずのない時間。こんこんこん、とノックの音が小さく響いて、やっぱり礼儀正しい子やなぁと思ったのを覚えている。

「失礼します。....っ、先生」

「あ、課題持ってきてくれたん？ありがとう」

ぱちり、目が合った直後。持っていたプリントの束の上にいつも通り貼られた付箋は、剥がされてぐしゃりと彼女の手の中で丸められた。
夕方の淡いオレンジの光に包まれたこの部屋でもわかる程に、彼女の顔は赤くなっていた。

「あっ、ここに置いておきま」

「待って」

「へ、」

思わず椅子から立ち上がり声を掛けた。....担任で教科担当とはいえここは高校だ。このままだとあまり顔を見ないまま1年間が過ぎて、離れ離れになってしまうかもしれない。
それは何となく嫌だ、と思った。

・