え？ 彼氏？ 普通に一般人ですけど。【となりの坂田。】

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Aside

『私が晩御飯の準備してる間に可愛い子とお電話なんていい度胸してるじゃない』

｢ちが…やから、浮気ちゃうって！｣

大きな目をこれでもかと見開いて必死に否定するのは私の彼氏である坂田悠。

言い合いの原因は同棲してからチラつく他の女の影。

月曜日になったら必ず部屋にこもって電話をしだすのだ。

いや、月曜日でなくても夜中になると部屋にこもって何かをしてる。

高校時代の友達と喋ってるらしい時もあるけど、よく“大好き”だとか“愛してる”とかいう単語が聞こえてくる。

今まで我慢してきたけど、ついさっきも電話してたくせに呑気にリビングに現れ夕飯のメニューを聞いてきた悠を見て耐えきれなくなった。

『じゃあなんでそんなにはぐらかすの？』

｢いや、まあそれは……ちょっと｣

ちょっと問い詰めるとこうである。

とても怪しい。

幸せな共同生活の幕開けがこんなことになるなんて想像もしてなかった。

『あのさあ…浮気してるならしてるって言ってくれない？
そうしたら私もまだいくらかは諦めつくんだから』

真っ赤な嘘である。

自分で言ったものの、してるって言われたら泣きそうなんですけど。

いや、既にもう泣きそうで鼻がつーんとする。

｢やからしてへんって！
なんで信じてくれへんの?!
いや確かに疑われるようなことした俺も悪いけど！
話ぐらい聞いてくれてもええやん………｣

今までじっと聞いていた悠がいきなり叫んだのでビビって後ずさりする。

しまったというような顔をしてうつむいた彼の目から、ポタリと涙が落ちた。

｢A、なんでなんよぉ……｣

悠は服の袖でしきりに目元を拭い、えぐえぐと泣き出し始めた。

ひっくひっくとしゃくりあげる姿はまるで赤ちゃん。

次にしまったという間抜けな顔を晒したのは私。

恥ずかしいという思いと罪悪感とまだ残っている疑いの気持ちで思わずカッとなる。

あれ、そもそも悪いのって悠の方じゃなかったっけ？

なに、この私が悪いみたいな雰囲気。

気がついた時には近くに置いていたスマホとカバンを掴んで玄関へと足を踏み出していた。

｢え？ あ、ちょっ、A！｣

ぱっちりとした目をさらに真ん丸にさせて悠が追いかけてくるのを無視して玄関へと走り出す。

適当な所に置いていたスニーカーを突っかけて飛び出す。

『私、お兄ちゃんの所に行ってるから。
＿＿＿ちょっと頭冷やしてくるね』

ドアを閉める瞬間に垣間見えた悠の泣きそうな顔が、とても印象的だった。

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