純粋な上に無粋である ページ10
.
授業が終わり、お昼になった。
いつも私は、混雑が解消されてきた頃合に購買部へと向かって、残り物のパンを一つ買って食べてやり過ごしている。大抵ヤドンが母親の手作り弁当を持って近くに寄ってくるが、今日はそんな気分ではなく。気付かれない内に、教室を出た。どうしてか、廊下を涼しく感じる。
別に、お腹も空いていない。朝に食べてきた〇ニッカーズの数は、昨日よりも一個少なかったはずなのに。口の中に詰め込んでいる時間が短かったからかな。
購買部とは反対方向へと歩く。屋上よりも確実に、人が少ないところで過ごしたいのだ。……いや、何だかんだ言って、それも建前かも知れない。
「Aじゃねーか。ったく、ノックくらいしろよ」
胡散臭さに加えて埃臭くて煙草臭いこの部屋は、坂田銀八がよくサボる国語科準備室という名の場所である。校舎のなかで最も必要がないといっても過言ではない此処だが、毎回無意識に訪れてしまうのだった。特に、理由なんてなく。
例に漏れず瞼が眠たげな気持ちと葛藤している様子の先生は、突然開いた扉の音に身体を起こす。「ザンネン。職員室に居てくれたら良かったのに」そう言って埃のかぶった長椅子に腰掛けると「よく言うわ」なんて外していた眼鏡を掛けながら言った。
どこまでも真っ直ぐな飛行機雲にさえ憧れを抱くような人生だと自負した瞬間、自身の心が酷く捻じ曲がっていると理解する。醜い思考回路ごと呪って、また一段闇へと足を引きずり込まれて。──先生は、それでも「逃げるな」と言い続けるのか。
「死にたくなっちゃうくらい、他人のことって好きになれるものなの？」
何かに目を通す先生の顔を見つめつつ、クーラーも効いていない空間でそう聞いた。暫しの沈黙ののち「さァな」と投げやりな返答をこぼすと、紙パックに入ったいちご牛乳を豪快に飲み干す。不健康極まりないな。割と人のこと言えないけど。
「先生なんだから生徒の質問にはちゃんと答えなきゃダメじゃん」
「俺だって教師である前に一人の人間なんだよ。そういうことはな、ヤフー知恵袋に聞け」
「媒体が古いですよ、時代は人工知能ですぅ」
「オイ古ィとか言うんじゃねェ、まだピッチピチだわ」
「それはそれでキモいと思わないの？」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 35人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こころ(プロフ) - 言葉遣いや、主人公ちゃんの気持ちの表現の仕方がすごい好きで、読んでいて面白いです。ゆっくりで良いので更新待ってます！ (2020年9月30日 20時) (
レス) id: efbab0acfd (このIDを非表示/違反報告)
小笠原＠銀トッキー - この主人公のノリ、好きです!更新頑張ってください (2020年5月27日 12時) (レス) id: d7fcd729d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：堕天使
| 作成日時：2019年9月20日 20時
