分かったフリ (ページ25)

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いつもは朝ご飯できたよの声がかかるまで
起きていてもベッドの中にいるくせに

のそのそ起きてきて「おかえり」なんて言ってくる

いつもより整ったシンクに食器棚

生活感の薄れた洗面台と寝室

毎月恒例のお母さん訪問は先週で済んでいるし
稜雅が自分で片付けられたとも思えない

誰か家に入れたんだ

また小笠原くんか草川くんってところかな

いつもお世話になっていますって今度ご挨拶しなきゃ

そんな風に推測しながら身の周りを整えてキッチンに立つ

なんか今日は静かだなと思ったらゲームの音が聞こえない

手元からリビングへ目線を移動させて姿が無いことを認識したそのとき

後ろから利き手と逆側の耳と肩に熱が落とされた

私の身体を挟むように前に伸ばされた長い両腕はキッチンカウンターに置かれ

肩に乗せられた顎と耳に触れる頬はいつもより熱い

「何、熱あるんじゃない？」

「、、飯なに？」

強引に話をそらす癖

さっきの推測が違うことに一瞬で気付いた

「、、お味噌汁とたらこかな
簡単でごめん」

「ん、待ってる」

リビングに戻っていく大きいけど狭い背中を呼び止める

「稜雅」

無言で振り向く

「夜久し振りに美味しいもの食べにいこっか
デートデート笑」

言い終わるときにはもう稜雅の腕の中にいた

「カレーがいい」

「分かった」

いつもより離れるのが遅いハグ

いつもより重なる速度が遅いキス

そういう日があってもいい

その理由は言いたくないなら言わなくていい

落ち着ける空間がここであれば

私であればそれだけでいい

「できたよ」

何事も無いように

2人で1日を消化しよう