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今の俺には
どこにいるか予想できていて
できるだけ早く迎えに行くよりも
どこにいるかなんて分からなくても
ただひたすら走ることに意味がある
激しく打つ鼓動と加速する呼吸の中で
探している顔を思い浮かべると
楽しそうに笑う彩乃しかいない
あのくっしゃくしゃな笑顔を奪ったのは紛れもなく俺で
稜雅のところに行かせたのも俺のせい
彩乃と稜雅が何をしたのかは知らないけど
あいつは俺なんかよりずっと大人な男だから
きっとそれとなく彩乃の背中を押したんだろう
だから帰ってきてくれた
なのにそのことすら感情のまま払いのけて
自分の事だけ押し付けて
「彩乃と何も話せなかった」
なんて今度仕事のとき言ったら
お説教か見捨てられるかのどっちかだろうな
うぜえけどあいつには敵わねえ
けど俺は絶対彩乃を離さないから
俺なりのやり方で取り戻すから
見とけよ
-
しばらく走っても姿は見つからなくて
雑踏の流れに逆らい疲れて足を止めた
顔を上げるとそこは
恋人として初めて2人で来た
彩乃の右の薬指に指輪をはめたレストランの前だった
「こんな事してもらうの初めてだから」って照れた笑顔
一瞬だけ目があってすぐ逸らされた後の「ありがとう」
嬉しそうに何度もはめられた指輪を見つめる仕草
「こっちの手がいい」といつもと違う、指輪が着いた方の手を握りながら歩いた帰り道
ただ立ち尽くして
こみ上げる甘い思い出に押し出されるように涙が流れる
昨日からジャケットのポケットで出番を待つ小さな箱を握りしめて
あの日2人で歩いた家までの道を
1人で駆け出した
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作者名：だしの素 | 作成日時：2019年1月4日 19時
