分かったフリ (ページ1)

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今日も1人暗い部屋で目覚めた

半分しか整える必要のないダブルベッドから降りて朝食の準備をする

私のお箸は短い方、お茶碗は小さい方

長いお箸も大きいお茶碗もすっかり棚の奥にいるから迷うこともない

あ、また部屋暗いままだった

1人でいると電気を点けないまま過ごすこともしょっちゅう

まぁ特に必要もないからいいんだけど

きっとまた自分で開けることになる鍵を締めて出る家

そこにかかる苗字は私のではない

「草川」の文字に見送られ、いつも通りの日が始まった

「今日は帰る」

一通の短いメッセージ

「何時？」

「分かんないけど1時くらいかな」

「ご飯作って置いておく」

「食べて帰るからいらない」

「分かった」

久しぶりの会話に声は無い

感情も無くてただの作業

でもまぁ生存確認？できたわけだし

どっかの恋愛ドラマみたいな生活も望んでないからいいや

家に着いて鍵を差し込む

反時計に回しても開いた感覚が手に響かない

ゆっくりと重い扉を開けると

久しぶりに見る靴が置いてあった

「ただいま」

「おかえりー」

「今日遅くなるんじゃなかったの」

「ん？あぁ、早く帰れた」

声があったところで温かさも何も無い会話

姿を目の前にしたところで高鳴るわけでも
落ち着くわけでもなく、一定のペースを保つ鼓動

完全に冷めきっている

何度もそう思った

けどここにい続けている

その理由

「長い間会えなくてごめん

ただいま」

なんて言って抱きしめてくるから

結局それに負けて

全てを許す夜がまた来る