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「じゃあ、……スープだけは食べてください。僕も無理強いはしたくないけど、Aさんこのままだと倒れちゃう。昨日の今日で色々ストレスも溜まってるだろうから、食事と睡眠だけはしっかり取らないと」
目の前のスープを見た。さっきまで味がしなかったけれど今は違うかもしれない。もう一度スープを掬って口に運へば、どうやらそれは思った通りだった。スングァンさんに言われた言葉で多少味がするように変化したのはきっと心の内で決心したからだろう。
しかし、3口目には手が伸びない。
「美味しいんですけど、お腹は空いているはずなのにお腹一杯なんです。なんでだろう」
「えぇっ、どうしよう」
「オッパがアーンしてあげようか?」
振り向くと、扉の間から顔を覗かすジョンハンさんがいた。スングァンさんが呆れながらジョンハンさんの名前を呼ぶと彼が中に入ってくる。
「ヒョンよくそんな事言えるね」
「スングァンやってみたら?ほら、A。食べさせて欲しくない?」
「ヤ〜やめてよヒョン、Aさん困るから」
「どうA?」
「……
スングァンさんがいいなら?」
「ハハッ、だってよスングァナ」
そう言うと予想外だったのが目を丸くするスングァンさんがいた。ジョンハンさんは笑いながらお嬢様からの命令だよなんて言っている。
普段はこんなことは言わないけれど、なんだかからかわれている年下のスングァンさんが可愛いので意地悪したくなる気持ちが少しだけあった。きっとジョンハンさんと同じ気持ちだと思う。
「もぅ、2人して僕をからかって」
眉を寄せた姿を見てごめんごめんと謝り、素直にスプーンを握り直した。
時間がかかってもスングァンさんの言う通りにスープだけでも食べなければいけない。そうしないとどこかで疲れてしまうのは目に見えている。
「スプーン貸して、Aさん」
えっ、と声を出すと瞬く間にスングァンさんが私のスプーンを奪い取る。まさか、なんて思っているとスングァンさんは特に笑いもせずに真顔で私のことを見る。
「やらないとは言ってないけど?」
挑発的なその態度にこの年下の執事はどうやら可愛いだけではなかったらしい。
ジョンハンさんがスングァンさんの後ろで心底楽しそうに笑っている。
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作成日時:2024年3月10日 16時