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顔を背ける手前、ドギョムさんの瞳は微かに潤んでいた。
ガタリと椅子が揺れてドギョムさんは立ち上がった。扉の前に立つドギョムさんは私のことを見ないまま喋りだす。
｢呼ばれたから…、行くね。｣
バタンと閉じる音はこの部屋に異様に響いて聞こえた。
私は、何を間違ったのだろう。
＊
ドギョムさんが出ていったあの後、直ぐに入ってきたのはカートを引いたスングァンさんだった。カートの上にある朝食を丁寧にテーブルに並べられ、1つずつ口にしていく。しかしさっきのことであまり味を感じることができなくなっていた。
｢Aさん、あんまりお腹すいてない？｣
｢そう、ですね。｣
｢ストレスかな…昨日の昼から何も食べてないから、お腹は空いてると思ったんだけど。もう少し軽めのものを作ってもらうように次からはシェフにお願いしますね。スープだけは食べれますか？｣
｢…頑張ります｣
ひとくち口に含んでクルクルとスープを混ぜる。次第にその手は止まり、2杯を掬ったがやはり口に持っていく事が出来なかった。食べたくないと、体が言っているようだった。ウォヌさんが作ってくれたホットミルクはあんなに美味しくてもう一杯飲みたい程だったのに今は体が食べること自体を拒否している。
｢…………勿体ないなぁ｣
その言葉を言った後、私の横に立っていたスングァンさんは私の隣の椅子を引いて静かに腰かけた。私は食べること諦めて、黙って膝に手を持っていく。
｢Aさん｣
｢…どうしました？｣
｢こんなに早く相談乗る時が来るとは思っていなかったけれど、さっきドギョムヒョンと何かありましたか？言いたくなければ結構です。ただドギョムヒョン、
あなたにごめんねって伝えといてって、言ってました。｣
どういう、事なんだろう。確かに知らないと言ったのはわざとな筈なのに。私のことを、…嫌っていると思った。それなのに何故こんなにも早く謝ってくるのか、ドギョムさんが何を考えているのか私には分からない。
｢わかりました。相談は、…大丈夫です。｣
｢…はい。Aさんがそう言うなら、見守っています。ただ、相談したい時はいつでも言ってくださいね、Aさんの力になりたいから。｣
目を離さず見つめて言われる言葉は執事としてとても頼り甲斐のある言葉だった。だがこれは頼らずとも私の力でしっかり向き合いたい事で。
ドギョムさんと、ちゃんと話さないければいけない。
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作成日時：2024年3月10日 16時
