消えた磁力 (ページ36)

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月夜ページ36

脱出できなければ…

元に戻れない？

薄暗い部屋の中に静寂が訪れる

「ゲームで脱出すればあなたの情報が本来の軌道に戻り、元の状態になります。ですが、今のあなたは非常に不安定な状態にあるためゲームに参加し、脱出が不可能になった際、どうなるのかは我々にも検討できません」

淡々と説明するナイチンゲールと反対に、僕は軽く混乱していて頭がうまく追いつかない

ハンターから逃げつつ全ての暗号機を解読して、ゲートを開ける

普段のゲームならばこのノルマを達成できる確率は低くない

だがそれは “4人が動ける” ゲームであればの話だ

僕は今、人どころか物に触れることさえできない

ゲームの日までに暗号機を触れるようになるかもわからない

できなければ残ったサバイバー3人が全ての暗号機を解読しなければいけない

そうなると確率はぐんと低くなる

ハンターやマップによっては更に難しくなるだろう

考えるほどに緊張感が襲い、血流が体の中を勢いよく駆け巡ると同時に不安が僕の心に根を這っていく

もし、失敗したら…

僕は…

　 “ノートン”

下を向こうとした瞬間、脳裏に僕を呼ぶ彼の顔が浮かびハッとする

そうだ

諦めたらダメだ

諦めるな

逃げるな

僕は生きるんだ

「…絶対に、脱出する」

拳に力を込め、心の中でそう決意する

説明を終えたナイチンゲールが先程と変わらぬ姿勢でこちらを見つめる

「それではノートン・キャンベル様。
今までの説明を承知の上で、ゲームに参加されるのでしたらノック2回、参加を拒否する場合はノックを1回してください」

そう言われた僕はナイチンゲールに背を向けて扉に近づく

僕の答え

そんなの決まってる

　 …コンッコンッ

静かな部屋の中で2回のノック音が響き渡る

それを聞き届けたナイチンゲールは机の上にある資料にサインした

「それでは、ゲームへの参加を決定します。方法については本番の日にお伝えしますのでそれまでは使用人がこれから案内する部屋でお過ごしください」

ナイチンゲールはベルを鳴らし、僕は駆けつけた使用人に案内されたランプの灯る一室に一人入って行った

窓の外を見ると夜空に青白く輝く月が浮かび、辺りの草木を照らしている

その中には前に見た枯れ草も混ざっていた

彼の好きそうな夜だ…

「…僕は諦めないよ。ナワーブ」