<<読者様3000人記念>> Blue 【Jun Matsumoto】 第１章

4. 書け違えたボタン ページ4

「いけないっ☆遅刻しちゃうよっ！
　急げっ、杏桜子(きょうこ)！」

「きゃーー(^^)」

「もうっ おもしろがってるでしょ？」

「えへへ♪」



園まで自転車で１０分の距離。
来年には小学生。

こうして母子二人で
この道を通うのもあと半年か...

まだまだ暑い日は続いているけど
少しずつ秋の気配を見せ始めた
９月の空を見上げてしみじみ思う。


「ママー、息すると、
このへんがひんやりっ」


少し冷たくなった朝の空気を
吸い込んだ娘が
後部座席ではしゃいでいる。




...”空気みたいな存在”、
これって誉め言葉なんだろうか。

恋人同士の頃はそんな二人に
早くなりたい、なんて
思い描いていた。

でも本当にそうなってしまった今。
心にはぽっかり穴が開いていて。

それを埋める術さえ
もう見つけられないくらい
いつのまにか自分の心も
疲れていって。冷えていって。



こうなってしまって早３年。

一つ掛け違えたボタンは
連鎖反応を起こすみたいに
どんどんズレを加速させていく。

一つ飛び出た不協和音はいつしか
曲全体を狂わすほどになっていって。

”このままじゃいけない”とも思う。

でも”もうそれでいい”と
思うこともしばしば。

あきらめにも似た気持ち。



大学時代の友人は
皆、同じサークルで。

”夫も含めて皆友人”的な
つながりがあるから。

唯一このことを話せるのは
高校からの親友だけで。



いつだったろう。
こんな状態が半年続いた頃だろうか。

どうにも気持ちを
持っていくところがなくて。

あるとき泣きながら
彼女に電話したことがあった。



「何悩んでるのよ。別れなよ。
　冬桜子まだ３０なんだよ？！
　子供がいたっていくらでも
　人生やり直せるでしょ？！」




その通りだった。
彼女の言うとおりだと思った。

でも結局私は苦しくても
今の生活を選んだ。

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