箒星 【Sho Sakurai】 第１章

23. ふりしぼる勇気 ＜S side＞ ページ23

「...さ、櫻井さん。
ですよね....？」

「(笑)覚えててもらえて
光栄です(^^)」

「きょ、今日は...
どうしたんですか？」

「あ。仕事で羽田に来て。
そういえば北田さん

羽田勤務だって言ってたから。
なんとなくダメもとで
　 探して見たらビンゴだった(^^)」

「は....はぁ...」



大きな瞳まんまるにして。
びっくりした顔で
俺を茫然と見つめる北田さん。



今日は制服姿。似合うなぁ....

こないだとは違って
アップまとめた髪は
なんだかすごく大人っぽく感じる。

その瞬間。予期せずして高鳴る胸。


...やばっ。
自分でも思ってた以上に。
彼女のこと。
気になってしまってるのかも....





「...髪」

「え？」

「髪。大丈夫だった？
切っちゃったとこ？」

「あ、はい。あの後揃えてもらったんで。
...あっ、ちょっと待っててくださいっ」

「あ、うん...？」



言いかけて。何
か思いだしたような表情に変わって。
北田さんはあわてて奥へと走っていき。
程なくして戻ってきた。




「あのっ、これ」

「え？」



俺の目の前に差し出されて。
そっと開かれた、
きれいに桜色のネイルが施された指。

彼女のてのひらには。
あの夜北田さんの髪にくっついてた、
俺のシャツのボタンが
ちょこんと乗っていた。





...捨てずに持っててくれたんだ...




俺だって半分忘れかけてた
あの夜のこと。

なのに。捨ててもおかしくない、
取るに足らねぇボタン一つを。
大事に持っていてくれてたなんて...





その瞬間。何かにトンッと
背中押された気がして。

”今だ！”って。
誰かの声が聞こえた気がして。





「...あっ、これは偶然
コートのポケットに」


北田さんの言いかけた言葉遮って。
次の瞬間。もう勝手に口が動いてた。



「じゃ。ボタンのお礼に」

「え？」

「良かったら。晩御飯
ごちそうさせてもらえませんか？」





俺にしては。すげぇ勇気と行動で。

今振り返っても。
”頑張ったなぁ、櫻井っ！”って、
自分で自分をほめてやりてぇくらい(苦笑)。




だけど。俺の言葉に
一瞬動きを止めた北田さんは。




「あ。ごめんなさい。行けません」




即お断りで。



....そ、そうだよな。
いきなりだもんな。

もう予定だってとっくに
入ってるかもしんねぇし。


あまりのきっぱり返事だけに。
少しへこんだけど。
気を取り直して再び誘う。

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