泡沫の恋【Tadayoshi Ohkura】 (ページ10)

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【１０】ページ10

「はい、カンパイ。」

本日3回目のカンパイが
まさかこの人と行われるなんて
１時間前までは思ってもなかったな。

ジョッキを合わせると、
コツンといい音が聞こえる。

．

「なあ、名前、なんちゅーの？
俺だけ知られてるのなんかイヤやねんけど」

「あ、ごめんなさい。Aです。」

「Aか。」

「うん。」

「ん。覚えた」

そう満足そうに笑う大倉くんにつられて、
笑顔になる。

この人の笑い方、好きだなあ。
あったかくなる。

「年齢、聞いてもええ？」

「３２、だよ。」

「え、同い年やん。」

「え、うそ！
年下だと思ってた…」

「俺、そんな若く見える？」

「うん。20代だとばっかり…」

「マジかー。
それってどうなんやろ…」

自分の顔を触って
考えるそぶりをする。

「褒め言葉として受け取って。笑」

「んー。ま、ええか。
俺もまだまだやっちゅーことで。」

かんぱーいっとまた、グラスをコツン。

「なんのカンパイ？笑」

「知らん！」

「なにそれ。笑」

ふたりでププっと笑いながら
運ばれてきたツマミを食べる。

．

昨日までテレビ越しに見ていた
今をトキメクアイドルと

生ビールを飲んでエダマメを摘んでるなんて、

夢みたいだけど、
喉に染みるほろ苦いビールの感覚に
現実だと思い知らされる。

．

でも、永遠に続く時間じゃないのは
当たり前で、

24時を回った時計がその終わりを告げる。