泡沫の恋【Tadayoshi Ohkura】 (ページ30)

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【３０】ページ30

「おーりーて！」

「ヤダ！」

ベッドを掴んで降りようとしない大倉くんのパーカーを引っ張る。

でも、男の人をベッドから引きずりおろすような力なんて持ち合わせてないから、ビクともしない。

その代わり、逆に腕を掴まれて引きずり込まれる。

「ちょ…っ」

「あージャストフィットや。」

向かい合わせで抱きしめられて、
足でガッチリとフォールドされる。

う、動けない…

「…馬鹿力。」

「ん？なに？聞こえなーい。」

耳に手を当ててワザと聞こえないフリをする

「離して！」

「わーわーわーわー」

「ねぇ！ってば！」

「わーわーわーわー」

耳を塞いでわーわー言ってる大倉くんの胸を力いっぱい押す。

足が絡んでるだけなのに、うんともすんともいわない。

終いには、頑張って押してる私を
ククッと面白そうに笑ってるし…

もうヤダ…。

大人しくなった私に
「そうそう。もう諦め。なんもせぇへんから」
そう言って優しく頭を撫でた。

大倉くんの髪から私のシャンプーの匂いがして、なんだか変な気持ちになる。

「…眠なってきたわ。」

「え？嘘でしょ？」

「……おやすみ」

「え？え？」

長い睫毛をゆっくり伏せて、
少しするとスースーと規則正しい寝息が聞こえ始める。

…やっぱり疲れてるのかな。
起こしたいけど、そりゃまあ起こして別々に寝たいけど…
気持ち良さそうに眠る大倉くんを起こせるわけがない。

寝ぼけてるのか、いきなりギュッと力強く抱きしめられて、胸がドキドキと高鳴る。

この音で大倉くんが起きてしまわないか不安になりながら、わたしも目を閉じる。

勘違いしないように。
このドキドキが変な期待に変わらないように。
ギュッと目を閉じる。