拾 変化 ページ10
雨など気にならないのか、杏寿郎はAの背に手を回す。最後に彼がAを抱きしめたのは、初めて会った時の稽古以来か。
あの頃と比べると、Aという少女がさらに小さくなっているように見えた。ほんの少し力を加えれば壊れてしまう、そんな脆い存在に。
「雨に濡れるわよ。離して」
「女性が泣いているのを放っておけるわけがない」
杏寿郎を拒むように、両手で彼の胸を押すAだが、その力は今までと比べ物にならないほどに弱々しい。
「離してよ!」
「断る」
Aが悲痛の叫びを上げるも、杏寿郎も引かない。
とうとう暴れ出すAに、杏寿郎は全くと言っていいほど動じない。決して弱いとは言えないAの拳が、杏寿郎の頭に炸裂する。だが、杏寿郎の表情は変わらない。むしろ、わざと受けている。
「あんたまで……いなくならないで。お願い、ひとりにしないで……」
独り言のように呟くAは、親から逸れた子供のようだった。全く晴れる様子のない曇り空の下で、杏寿郎はいつもと同じように、真っ直ぐにAを見つめる。
「俺が守る!煉獄 杏寿郎の名にかけて、これから先何があろうと、Aを守ると誓う!」
暑苦しいくらいの熱意。だがそれは、Aの閉ざしかけた氷の扉を溶かすには充分だった。
蓋が取れたように、Aが嗚咽を漏らす。自身よりも2回り近く大きな背に手を回し、生まれたばかりの赤子のように声を上げて泣いた。
Aがこれ以上雨に打たれぬように、杏寿郎はさらに強く、けれど壊れ物を扱うように優しく、彼女を抱き寄せた。
ある男の葬儀が行われた後、煉獄 槇寿郎は柱を辞退し、妻と息子たちの側にいる時間を増やした。
今まで以上に、彼は妻と息子に愛情を注いだ。息子の許嫁であるAにも、本当の娘のように、厳しく優しく接した。
やがて、彼の妻、煉獄 瑠火が息を引き取った。眠るように穏やかに、幸せそうな微笑みを浮かべて。
槇寿郎は涙を流しながらも、息子たちの道を示すべく、彼は稽古をやめなかった。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時