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玖 葬儀 ページ9

父の葬儀は、滞りなく執り行われた。早すぎる死に嘆く遺族が目に入るが、私は始終、涙を流せずに父の遺体を見ていた。
父は穏やかな表情で、今すぐにでも起き上がってきそうだ。もしかしたら、また私の名前を呼んでくれるかもしれない。もしかしたら、Aの泣くところがみたくて、とふざけた事を言うかもしれない。
そんなことはない。死んだ者は生き返らない。昨日まで共に歩んでいた者が、2度と会えない人になるなど、この世界では珍しくない。
私は、泣けなかった。
父の最期を聞いても、父の遺体が焼かれても、遺骨になっても、私は泣けなかった。
父と鍛錬をした庭では、大粒の雨が降り、庭の木々を打っていた。このままこの庭が、雨の湖で沈んでしまえばいいのに。

「A」

庭の池のそばにしゃがみ込む私に、誰かが後ろから声をかけてきた。聞き慣れた声に、顔を見ずとも分かる。

「杏寿郎か。何、明日の鍛錬の話?明日も鬼ごっこでどう?私は鬼役で、杏寿郎たちが逃げる役で。私、こう見えても速いのよ。この庭で父上に鍛えられてきたんだもの」

触れた衣服が重い。でもそれ以上に、心の中が重かった。なのに、何もない。大切な何かが抜け落ちてしまったように、中身のない果実ように。

「私はね、ここに捨てられていたのよ。この庭に。父さんが拾ってくれなきゃ、私は死んでた。男じゃなかったから捨てられたんだろって」

私と父に、血の繋がりはない。でも私は、あの人を本当の父のように尊敬していた。目標だった。いつか超えると決めた超えられない壁だった。
本当の両親のように、女だからと捨てられるのを恐れて、毎日死に物狂いで父の稽古に食らいついた。
いつしか、そんじょそこらの男子には負けなくなった。強くなったんだと、心の底からそう思えた。
人は死ぬんだと、そう思った。どんな強者も、さらに上の強者に喰われる。
父さんは、私を捨てて逝ってしまった。私が弱いから。私が女だから。

「ほら、今日は天気が悪いんだから、早く帰りなさいよ。杏寿郎の父上も心配するでしょ」

泣くなら笑え。今ここで泣いても、誰も守ってはくれない。1人で立て。できなれければ置いていかれる、捨てられる。
嫌なら笑え、笑え。

「泣きたいのならば、泣けばいい」

いつの間にか、私は誰かに抱きしめられていた。誰なのか、この特徴的な炎のような髪を見れば、答えは簡単だ。
ほんの数年で、私と同じくらいの身長だったのに、今では私の方が頭2つ分も小さかった。

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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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