漆 父として ページ7
ほんの少し前までは、俺たちは悪友だった。両親が顔見知り、ということもあるが、俺たちはなんとなく、コイツとなら上手くやっていけると思った。
根拠や理論はない。そんな小難しいことは俺たちには必要ない。背中を任せられるか否か。それだけの話だ。簡単だろ?
「俺たちの子供を結婚させれば、俺たちは兄弟だ、とかくだらない事を言ってたなぁ」
「そんなことのために、婚約をさせたわけじゃないだろう?」
「当たり前だ。だが、お似合いだろ?あの2人は」
「そうだな」
ノリ気じゃないな、とからかってやれば、親友はそれどころじゃないだろ、と怒りを露わにする。
昔はもっと可愛げがあったんだがなぁ。奥さんのことでからかってやれば、すぐに赤面したってのに。
「俺の娘は女神みてぇに可愛いだろ?お前の息子に嫁がせるのは勿体ないが、アイツのあんな顔見せられたらなぁ」
決闘の日の夜の、親友の息子を見つめる娘は、月のように輝いて見えた。恋をしたら人は変わるというが、それが当てはまっている。
男手一つで育てた娘が、いつの間にか俺から離れていってしまった。杏寿郎か、覚えたからな。
「俺は幸せもんだなぁ?親友とは兄弟に、娘は好きなやつに嫁げる……よな?嫁がせてやれよお前」
「俺に言うな、自分でやれ」
「そりゃあ無理な話だ。そういうのは俺は苦手なんだ、分かるだろ」
だからさ親友、泣くなよ。昔みてぇに馬鹿騒ぎして、賑やかにやろう。俺たちらしく。
そんなみっともねぇ面すんなよ。
片腕を無くした俺の肩を支え、親友は必死になって俺に声をかけてくる。足の肉はえぐれ、頭から血でも流れているのか、視界が悪い。
痛みはもうない。つまり、そういうことだ。
「しっかし、まさかの大型がいたとはなぁ」
俺たちの任務は鬼の撲滅。だがその鬼は、俺たちが着く頃には人間を何十人も喰らい、報告以上の力を増していた。しかも、鬼は1匹ではなかった。それが悲劇を招いた。
親友と共に来た新人は皆喰われ、俺と親友がなんとか食い止めたものの、俺は致命傷を負った。
「俺のせいだ……俺がっ……お前たちを殺したようなもんだ」
「やかましい」
涙を流す親友の頬を、俺は容赦なく打つ。力を入れすぎたからか、親友の顎からゴキリと嫌な音が聞こえた。すまん。
親友は一瞬間抜けな表情になり、俺を見る。
その目には、悲哀と戸惑いが入り混じっていた。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時