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外伝 稽古 ページ42

煉獄家の庭は、今日も賑やかだった。木刀のぶつかり合いとは思えないほどの凄まじい音が絶え間なく鳴り響き、砂埃が常に舞っている。
息遣いとパァン!と爆ぜるような音のみが響く中、千寿郎は不安そうに見守っていた。

「ぐっ……!」

勢いよく地面に叩きつけられたのは、Aだった。
倒れた彼女の前で、呼吸が全く乱れた様子のない杏寿郎が、彼女を見下ろす。

「兄上、やり過ぎです!」
「むぅ……すまん!咄嗟のことだった故、加減が出来なかった!」

大丈夫か、と手を差し出す杏寿郎に、Aは顔をしかめ、自分で立てる、と木刀を支えに立ち上がる。
自分のできることは自分でやる、なんとも可愛げのない彼女だが、そんな彼女が、杏寿郎は嫌いではなかった。

「出血してるわね。木刀で皮膚が切れるとか意味がわからないんだけど」

肩から小さいながらも傷ができ、そこから溢れる血が、彼女の服を赤く染めた。
血が出るほどの力で、許嫁を木刀で叩きのめすのはどうかとは思うが、加減していられるほど、Aも弱くはないのだ。力や体力では杏寿郎が優っていても、速さだけは唯一、杏寿郎をも凌ぐから。

「止血できるか?」

【全集中・常中】もそうだが、Aは人よりも呼吸の扱いに劣っている。要は不器用だ。
Aは呼吸し、全神経を集中させ、出血した血管を探る。これは、言われてすぐにできるようなことではない。
竈門 炭治郎はほんの短時間でやってのけたが、それは彼の才能と努力によるものだ。敗北を知った天才ほどに、手強いものはない。
杏寿郎が炭治郎に声をかけたのも、その才能と志にあった。いや、才能がなくとも、杏寿郎は炭治郎の志に惹かれていただろうが……。

「集中」

眉に皺を寄せるAの額に人差し指を当て、落ち着くように促す。慌てては、集中も何もあったものじゃない。
しばらくして、Aの表情が変わる。破れた血管を見つけられたのだろう。

「そこだ、止血……出血を止めろ」

具体的にどうすりゃいいの!という言葉を飲み込んで考える。止血……血管を繋げるようにイメージする。それでできるのかと問われれば無理の2文字に尽きる。

「あ……できた」

それでも出来てしまうのだから、呼吸とは不思議なものだと思う。良くやったと頭を撫でてくれる杏寿郎は、自分のことのように喜んでくれた。
この傷を負わせたのはアンタだからね。

「女性の身体に傷を負わせた責任は取る!」

夜に地獄を見るとも気付かずに、素直に私は照れていた。

外伝 炎の宴→←外伝【弐】 任務の後



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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