廿弐 口は災いの元 ページ22
「はぁ……」
深いため息をつきながら、私は風呂の湯に肩まで浸かる。甘酸っぱいゆずの香りに安堵して、白い湯気が天井まで上るのを眺めていた。
この1年で、杏寿郎と私との差はさらに開けた。アイツはもう、父親と同じ柱まで登りつめていた。任務で忙しいだろうに、週に4回は私たちに会いに来てくれる。
「……情けないなぁ」
鬼殺隊になった私にも、任務はある。けれど、杏寿郎に比べれば忙しくもなんともない。普通ならば探して見つけ出さなければならない鬼も、「稀血」などと言いながら勝手に出てきてくれるため、探す手間が省ける。
柱になった杏寿郎と、未だに【全集中・常中】もできない私。あまりの差に泣きたくなる。
深いため息をついた直後、風呂場の扉を誰かがノックした。
「A!いるか?」
やはりと言うか、杏寿郎だった。いるよ、と返事をすれば、そうか!と声が聞こえるや否や、勢いよく扉を開く許嫁。言い換えよう、杏寿郎は、許嫁の入っている風呂場の扉を開けた。
「ちょっ……さっき私がいるか確認したのはなんだったの!返事したよね!?いるって返事!」
「いるから入った!」
「意味わからないんだけど!?」
下をタオルで隠しているのは褒めよう。だが、だからと言って男女は同じ風呂に入るのどうかと思う。
混浴は確かにあるが、ここは混浴じゃない。
「ノックをしろと言ったから、ノックはしたぞ!」
「言ったよ!けど、ノックをしたら入ってきて良いとは言ってないよね!?」
私の悩みは、許嫁が風呂に入ってくることだ。扉を閉めようにも、アイツが扉から手を退けない。力で私が勝てないと踏んでのことだろう。悔しい。
「さぁ、入ろう!」
「入るわけないでしょ、出て行きなさい!」
押し返そうとする私の何が面白いのか、杏寿郎はワハハ!と笑うだけでビクともしない。
こんなことのために体力は使いたくはなかったが、こうなってはもう仕方ない。
【全集中の呼吸】
お風呂で温まった身体の体温が、さらに上がる。
心臓の鼓動が聞こえる。
床を蹴り、余裕そうな笑みを浮かべる(といってもいつもそんな顔だけど)杏寿郎の顔めがけて飛び蹴りをする。
【全集中の呼吸】で底上げされた、私の蹴りを食らって倒れろ杏寿郎ー!
「む、見えた!」
「え、うそ!?」
杏寿郎の言葉に、私は空中でタオルを股下まで引っ張り下ろし、見事に体制を崩してしまった。
「見事な飛び蹴りだった!」
そんな私を受け止めてくれる杏寿郎。嬉しいけれど嬉しくない。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時