【鬼滅の刃】堕ちた桜のように

廿壱 反語 ページ21

煉獄家の庭で、正座をしたまま、Aは大きく息を吸い込む。

【全集中の呼吸】

そんなAの前に、仁王立ちで腕を組んでいる彼女の許嫁、杏寿郎。それをそわそわとした様子で見守る彼の弟、千寿郎。
Aが行なっているのは、【全集中・常中】と呼ばれる技の取得だ。【全集中の呼吸】を四六時中行うことで、身体基礎能力を引き上げるというもので、鬼殺隊には必須の技の１つだ。

「うっ……！」

だが、これを習得するにはかなりの努力が必要だ。【全集中の呼吸】はあくまで、無理やり肺を広げ、体温を上昇させているのであり、慣れるまでは、肺や耳が破れそうなほどの激痛を伴う。
苦しそうに咳き込むと、Aは肩で息をしながら、その場に倒れ込んでしまう。

「大丈夫ですか！？」

千寿郎が駆け寄ろうとするが、それを杏寿郎が手で制し、千寿郎からAの姿を隠すように、Aの側でしゃがみ込む。
ここで手を差し伸べるのは簡単だ。むしろそうして甘やかしてやりたい。だがそれは、Aの望むところではないと、杏寿郎は理解していた。こんな、無様に地面に這いつくばる姿を見るのは、許嫁である自分１人でいい、と。
……普段は強気な彼女が、弱々しく涙ぐむ姿に来るものがあるなど、思ってはいない。断じてない。

「ゲホっ……はぁ、はぁ」

落ち着いたのか、ゆっくりと起き上がるAだが、額には汗が滲み、呼吸も未だに乱れている。髪は乱れ、着物もはだけてしまっている。

「破廉恥な！」
「アンタ本当にブッ飛ばすわよ」

はっきり言ってギリギリである。少なくとも、嫁入り前の娘が異性に晒していい姿ではない。
Aが【全集中・常中】の修行を始めて、もう１年が経つが、先の通り、取得は出来ていない。それは本人もよく分かっているのだろう、焦りと不安が入り混じった、捨てられた子犬のような目で、杏寿郎の顔色を伺っている。

「良い！」

心の中で思うと同時に口に出す杏寿郎。本来なら心の奥こそに仕舞うべき言葉もすぐ口に出すのだから始末が悪い。そのせいで、Aが顔を赤くしたまま自室から出てこないという事件が起きた。
Aは肺が弱かった。遺伝によるものかは定かではないが、それもあり、【全集中の呼吸】でかかる負担も並の比ではない。
ちなみに、杏寿郎は半日で【全集中・常中】をマスターしている。負けず嫌いのAが、それを快く思うだろうか、いや、思わない。

廿弐 口は災いの元→←廿 大切な人へ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す