拾伍 誇り高き人へ ページ15
どれほどの時間が経ったのか、今の私には分からない。
鉄の匂いが辺りを満たし、本来の服装とは異なる真っ赤な衣を纏っているかのように見える。
刀を支えに膝をつき、けれど技を使うのは決してやめない。一体どれほどの鬼を斬ったのか、刀の刃は既にボロボロだった。
「はぁ、はぁ……ぐっ」
立ち上がろうにも、足が悲鳴を上げてどうにもならない。なのに、鬼は斬っても斬っても湧いてくる。
舐め回すような、気味の悪い無数の視線。思わず背筋が凍りつくような殺意。
先ほどまでの間に、木々にはいくつもの切り傷や刺し傷が刻まれていた。
【全集中 炎の呼吸】
身体中が、燃えるように熱い。これ以上は無理だと訴えてくる。これ以上は死んでしまうと。
でも、やらないと。この世界では、自分で自分を守らないと、誰も助けてくれない。
【壱ノ型 不知火】
とうとう、私の刃は折れた。
刀を失った剣士など、爪と牙を失ったライオンのようなもの。もう私には、戦う術はない。
『……何かあったら俺を呼んでくれ』
どうして今、アイツの顔を思い出すのだろう。父さんよりも先に、アイツの顔が浮かんだのはどうしてだろう。
昔からそうだ。稽古の時も、いつもアイツが前にいた。私の世界の中心には、アイツがいた。
迫り来る鬼の群れを前にしても、思い出ばかりが頭の中を駆け巡っている。あの背に憧れて、あの背に惚れた。
唯一の家族を失っても、アイツがいたから立ち直れた。生きていこうと思えた。だから、これ以上アイツの足を引っ張りたくはない。
このまま誰にも知られず、死体も残らず死ぬ。アイツは、泣いてくれるだろうか。私の死を、悲しんでくれるだろうか。
……悲しんでくれたら、いいのにな。
「杏寿郎……!」
せめて最期に、1目だけでも会いたかった。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時