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壱 桜 ページ1

春から夏に変わる、温かな季節。桜は既に葉に覆われ、地面に残された桜の花弁は、親から逸れた子供のようで、ひどく寂しさを感じる。お前はもう用済みだと切り捨てられたその姿は、昔の私と重なって見えるから。

「お呼びでしょうか。父上」

正座をし、手を添えるようにそっと襖を開ければ、部屋の奥で父が真剣な面持ちでこちらを見据えていた。
私はA A。代々炎の呼吸を継ぐA家の長女だ。本来ならば、家を継ぐのは長男の役目だが、我が家に長男はいない。そのため、将来は私がこの家を継ぐことになる。女の私は、家を継ぐにはやはり問題がある。男尊女卑がなくなりつつある現在でも、女性に対する偏見は完全には消えていない。

「Aか」

父からこちらへ来るように促され、私は襖を閉めてから、父の前まで足音を立てないよう近付き、正座をする。
最初の頃は、正座をしてもすぐに足が痺れ、その度に父からは、修行が足りん、と喝を入れられた。
襖の向こうから差し込む日の光が部屋を照らし、沈黙が流れる中、場を和ませるように、小鳥の柔らかなさえずりが耳を打つ。

「単刀直入に言う。お前の婚約者が決まった」
「え……?」

私の父は、基本的に無口だ。よく言えば静か、悪く言えば言葉足らず。今はその悪い方が出ている。
いろいろとすっ飛ばす父だが、今回は今までの比ではない。お見合いも何もなくいきなり婚約だ。

「ち、父上?その……婚約、というのは?」
「家は、お前の許嫁に継いでもらう」

父の言葉に、私は言葉を失った。いつかは言われるかもしれないと怯え、毎日倒れるまで稽古を続けてきた。我が家を継ぎ、父に捨てられないために。
だが父は、私ではなく、私の伴侶に継がせると言っていた。

「ですが……」
「女のお前には、我が家は継げない。お前も分かっているだろう?」

父の、責めるわけではない、けれど容赦のないナイフのような声に、私はグーの音も出なくなった。
今ならば、私でも男に勝てる。だが、成長したらどうなる?力の差はもちろんのこと、体力面でもあきらかに不利になる。
戦闘において、女は弱者だ。
血の滲むような努力をしたとて、天才に勝てるかと言われれば、必ずしもそうではない。
初めから、私の行きつく際は決まっていたのだ。

「煉獄 杏寿郎。我が家と同じ炎の呼吸を継ぐ名家の長男が、お前の婚約者だ」

弐 強気→



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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