外伝【肆】夏祭り ページ49
目の前の集団が、人間だというのは分かる。だが、私を見る目は鬼のそれと同じだ。咄嗟に日輪刀を隠しはしたものの、今すぐにでも引き抜いてやりたい。
「ごめんなさい、連れがいるので」
「そんなつれねぇこと言うなよ」
馴れ馴れしく話しかけてくる男。こういうのを世間ではナンパと言うんだと、父さんが言っていたのを思い出す。
相手にする必要もないので、無視して進む。力は大したことないし、例え殴られようが、痛くも痒くもないだろう。
「こいつ力つよ……」
アンタたちが弱すぎるのよ。せめて素振り1000回できるようになってから出直してきなさい。
「あ?姉ちゃん怪我してんじゃん」
「あっ……!」
男がそう言うと、先ほど止血したばかりの私の肩を掴んできた。そのせいで、傷口が開いてしまう。
このクソ外道め……。
私が拳を振り上げたその時だった。
「俺の嫁に何か用か?」
声が聞こえるや否や、周りにいた男どもが全員吹き飛ばされた。正確には、目に見えないほどのスピードでぶん殴られた。
「大丈夫か!」
「大丈夫……じゃない。ごめん、鬼に手間取っちゃって。あと肩が痛い」
杏寿郎はすまなさそうに私を抱えると、人目の少ない、さらに奥のベンチまで運んでくれた。なかなか水を売っている店が見つからず、かなり遠くまで行っていたらしい。本当にごめん。
「失礼する!」
「へ?何が……っ!」
浴衣の裂け目から、傷口を生暖かい何かが撫でた。ザラザラとしていて、傷口にしみる。かと思えば今度は噛まれた。
犬かアンタは。犬なのか。
「や……ちょっ!」
あまりの痛みに、力の入らない拳に力を込めて杏寿郎を殴る。もちろんグーで。
怪我人に何すんの、と言おうとしたら、口を塞がれた。しかも指で。こちらを見てもないのに器用なことするな。って違う、そうじゃない。
頭の中で警報が鳴る。これはダメな奴だと。
「A」
耳元で甘く囁かれ、有無を言わせず、そのままベンチに押し倒された。いつもなら、もっと抵抗した。でも、今日は私のワガママで杏寿郎をさんざん振り回した。
「次は俺のワガママに付き合ってくれ!」
コイツが優しい時は、必ず裏に何かある。心の奥そこ、魂に、私は深く深く刻み込んだ。
さんざん弄ばれ、ため息混じりに空を見上げると、夜空に大きな花火が咲き誇っていた。
花火を見ずとも、私たちは冷めぬ愛を既に培っていたんだと、そう思うことにした。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時