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卅伍 真の呼吸 ページ35

私の最愛の人は、泣いていた。私が死んだ時、杏寿郎が悲しんでくれたらいいな、とは思った。
でも、まさかこんな形でお別れになるとは思わなかった。こんな残酷な形で、別れたくなかった。
でも、私は本当に幸せだった。千寿郎に会えて、お義父様やお義母様たちに教えを受けられて。
ねぇ、杏寿郎。貴方は気付いていないと思うけど、貴方が私を守ってくれていたんだよ。貴方がいたから私は、こうして前を向いて生きていけたの。
私は貴方を好きになれて、嬉しかった。
最期に見るのか、貴方で良かった。
泣かないように、微笑んだまま、私はこの、幸福で満ちた生涯を閉じようと、目を閉じた。

『A、お前はまだやる事があるだろう』

真っ暗な空間で、父の声が聞こえた。
目を開けると、そこには困ったように笑って、父さんは私の前に刀を差し出していた。

『お前は知っているはずだ。お前の得意とする、本当の型を。お前はまだ、やるべきことがあるだろ』

父に渡された刀は、薄紅色の刀だった。けれど、私の持っている刀より、少し大きい。

『呼吸をして、全神経を集中させろ。思い描け、お前の真の型を』

父に言われた通り、私は刀に手を添えて、呼吸をする。思い描くのは、炎……いや、違う。それは私の型じゃない。
私の型は、炎じゃない。

【全集中の呼吸】

思い出せ、私の型を。
創造しろ、迷うな。
思い描くのは、風に舞う、薄紅色の花弁。年に1度だけその命を灯す、儚く美しい桜を。
刀を抜いた途端、辺りを薄紅色の花弁が竜巻のように舞い踊る。知っている、私はこの景色を。

『さぁ、行きなさい。お前を待つ人たちの元に』

桜吹雪の中、父さんが笑って、私に手を振っているのが見えた気がした。

「A!」

遠くで、あの人が私を呼ぶ声がする。この真っ暗な空間を、炎のように照らしてくれる人。
貴方が私を呼んでくれるから、私は貴方の元まで舞っていける。貴方の元まで、行けるんだよ。

【桜の呼吸 壱 桜花爛漫】

私は彼の声に誘われるように、光に手を伸ばした。

堕ちた桜のように→←卅肆 乾いた砂



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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